2012年7月16日月曜日

りふれ派の社会的機能について考える

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濱口氏に習いリフレ政策・反増税を推進する経済評論家等の集団を「りふれ派」と定義して、その社会的機能を議論してみたい。ここでの「りふれ派」からは、真面目に研究しているマクロ経済学者や、『道草』でクルッグマンらの主張を紹介している人々は除外する。濱口氏の「りふれ派」批判(エントリー追記部分)に対する感想と言う事で。

1. 理論的・計量的根拠は薄弱

りふれ派の理論的背景は・・・未だに良く分らない。流動性の罠に無い開放経済IS-LMをベースにしているが、通貨供給量がインフレ率を決定するようだ。マネタリーベースの比で為替が決定されたりするのも独創的と言えるかも知れない*1。ゼロ金利を超えた量的緩和でインフレと通貨安を起こせると考えているのは確かで、これはクルッグマンの主張やケインズ経済学の範疇ではない*2。実証的な根拠は、グラフや計量分析による説明はあるが、脆弱だ*3

2. 事実誤認が多い主張

ミクロな政策現場に関連しては濱口氏が指摘しているが、大雑把極まりない発想と言うか事実誤認が多そうだ。特に高橋洋一氏は、金融政策の効果は数年後*4だとか、現在のCDS価格からソブリン・デフォルトの可能性が無い*5とか、金融政策は量ではなく差分で見るべきとか、暑さで発汗が多いときは水分と同時に塩分も補給しないと危ないと言いたくなるような発言が多い。何はともあれ、説得力は無い。

3. 政権与党への影響力は皆無に近い

埋蔵金を掘り返すと言っていた民主党は手の平を返したが、現実を直視せざるをえなかったのであろう。「日本の財政関係資料」を見せられて財政状況を説明されたら、増税や公共サービスの削減無しで財政再建できますよとは信じない。少子高齢化は深刻で、この影響は無いと主張しているのは著しく説得力に欠ける*6。ラジオ番組で田中秀臣氏と自民党政調会長代理の林芳正氏がディスカッションしていた*7ようだが、文字おこしされた文面からは林氏は怒っていたと思う。

4. 政治活動はしていないか、なっていない

濱口氏は「不気味な政治活動」と表現していたが、りふれ派は相手が納得できるような情報を提供していない。『高齢化による生産年齢人口の減少により社会保障が毎年1兆円増える』と言う政策課題に対して、『経済成長』『徴税漏れを防止』と言われても、それが出来るのであれば既にやっているとしか思わないであろう。

こうして見てみると、その政策の労働者階級への影響からシバキ云々と言う以前の問題が多数ある。濱口氏はイデオロギー的な批判をしているが、そういう段階に到達していないのでは無いであろうか。理論的にもデータ的にも見るべき所は極端に少ない。

5.「りふれ派」の目的は? ─ 著作販売

飲み屋で野球チームの監督の悪口を言っているのと全く同じ」と指摘している人がいたが、正にそういう感じ。理論的にも、実証的にも、明らかに破綻しているが、それは不十分な政策のせいだと言いつづけている。お布施が足りないので御利益が無いと主張する宗教団体のようだ。インフレ目標政策の効果やデフレの弊害*8を淡々と説いている人には、むしろ邪魔な存在であろう。

「りふれ派」の目的は何か? ─ 著作の販売だと思う。官僚や日銀の陰謀論*9は売れるであろうし、通貨供給量を増やせと言うソリューションは単純で分った気にさせる。そういう商売も世の中にはある。高橋是清の自伝の方が面白そうだけど。

6. 真面目に捉える価値は無いが、社会的機能も考えられる

「りふれ派」はエンターテイメントの一種なので、目くじらを立てずにサブカルチャーとして見守りつつ、たまに揶揄すれば良いのだと思う。毎日のように突っ込めるネタが飛んでくる気もするのだが、実際のデータを調べる機会にはなるかも知れない。そういえば「りふれ派」も社会貢献をしている面もある気がする。

日本の財政関係資料」は集約的な資料になっているし、「日本銀行の機能と業務」は金融を勉強する人には一読の価値がある資料だ。こういう充実した政府刊行物の類が作られるというのは、誰かがある種の圧力を感じさせるのに成功しているからで、危機感を持って説明責任を果たさせている可能性がある。

*1翁邦雄「金融政策と為替レート -為替レート決定理論とソロス・チャート」経済セミナー,2011年10・11月号 (No.662)

*2クルッグマンの主張はIt's baaack!論文で把握できるが、通貨供給量だけでインフレ期待の形成を図るところがクルッグマンと大きく異なる。財政政策や流動性の罠を無視するのでケインズ経済学にはなっていないが、ケインズを引用するのは好きなようだ。

*3りふれ派は通貨供給量が全てを決定するかのように主張するが、近年のマネタリーベースとマネーストック、それらとインフレ率との無相関ぶりは良く知られている(平成23年度年次経済財政報告第1-2-15図, 森澤(2009))。計量分析結果も彼らの主張を否定するようだ(何だか怪しい量的緩和の計量分析)。また、2001~2010年は一人当たり成長率にするとEUや米国よりも日本が良かった事(The Economist)や、ドイツよりも倍大きい生産年齢人口の減少の影響を無視している。

*4資本市場のソブリン・デフォルトの確率計算は不正確」を参照。

*5金融政策の効果は数年後?高橋洋一の説明たれ流す報道はアテにならず」を参照。

*6マクロの生産関数Y=A・F(K, L), Y:産出量, A:技術,K:資本, L:労働で、Aの上昇に限度があり、KとLが比例的に上昇しないと成長率が鈍化することを思い起こせば、高度成長には無理がある。増税か歳出削減が無いと一人あたりGDP成長率が6%近く無いと破綻(=発散)すると言われているのに、名目経済成長すれば良いと言いつづけていても説得力は無いであろう。

*7田中秀臣vs林芳正「消費税増税法案の修正協議」H24.6.11

*8インフレ目標政策の効果は『「デフレ脱却優先論の論理的陥穽」に関して説明を試みる』を参照。デフレの弊害は、賃金や物価の下方硬直性、名目金利の非負制約、公的制度の硬直性(e.g.厚生年金基金の上乗せ給付を想定利回り5.5%や代行給付の予定利率が3.2%、マクロ経済スライド)

*9個別の官僚の堕落はともかく、巨大な組織が揃って陰謀を行うのは無理があるように感じる。

2 コメント:

a さんのコメント...

“りふれ派”でないリフレ派って日本にいるんですかね。
高橋洋一を放置しているどころか協力しているみんなの党や飯田泰之、田中秀臣氏らはどっちでしょうか。

tokio さんのコメント...

貨幣数量説ではないインタゲ派として岩田規久男氏がいますよね。彼は企業の貯蓄をはじめとする滞貨の流動化が目的であって、貨幣を供給するのはインフレになってからだと主張してるのが面白いです。要は社内留保のようなものを吐き出させて貨幣の流動性を確保するのが目的、マネーサプライそのものが目的ではないわけですね。通貨の供給だけを目的にしているのは本末転倒どころかデフレを促進すると指摘する経済学者もいるし。今の政府紙幣バラまきを主張してるのは、基本的な認識がオカシイのかな、と…。

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