ノンフィクション作家の山岡淳一郎氏の「維新躍進のウラで…大阪の「コロナ死者数」が「日本で飛び抜けて最悪」になっている理由」と言うエッセイが反維新の人々に人気であったのだが、都市化の程度を考慮すると飛び抜けて最悪とも言えないことを指摘したい。イソジン推奨や雨合羽寄付や国産ワクチンなどの右往左往に関わらず、ワースト3に入るだけである。大阪府民は吉村大阪府知事、松井大阪市長を非難したほうが良いと思うが。
2021年12月26日日曜日
2021年12月24日金曜日
古代から中世の日本史がよく分かるようになる『荘園 — 墾田永年私財法から応仁の乱まで』
日本史の教科書は経済構造の説明が薄いので、ずっと奈良~平安~院政~鎌倉~室町時代の社会の変遷と言うか繋がりが謎だった。奈良時代までいたはずの豪族の皆様は平安時代以後、音沙汰がなく霧散してしまった気がするし、皇室や貴族の皆様は鎌倉時代以後は霞を食べて生きていた気がしてくる。支配層や合戦の記述は切り口が悪く、当時の社会が見えてこない。
2021年12月14日火曜日
サンプルサイズを逐次拡大して統計的有意性を出すp-hackingはまずされない
仮説検定で統計的有意性が無かったときに、観測数を増やすことで統計的有意性を捏造できるからP値の利用は不正を招くような話をネット界隈で見かけることがあり、繰り返し強調している数学者もいるのだが、そんな事は現実ではまずされないので指摘したい*1。
実際に問題になっているのは、少ないサンプルサイズの実験で“偶然”異常値を引き当てたり、恣意的にサブサンプルだけを分析するchampion data problemの方だ。
2021年12月6日月曜日
萌え絵への非難はキャンセルカルチャーの範疇に入らないから
ネット論客の青識亜論氏が「キャンセルカルチャーをキャンセルするには?――対抗戦略の具体的検討」と言う論考を書いている。女性表現物がフェミニストの非難で撤回や修正に追い込まれないようにするには・・・と言う話なのだが、キャンセルカルチャーの意味を誤解している。
古代ギリシャの陶片追放のように、人間を役職から降ろしたり、職場や共同体から追放するようなことをキャンセルカルチャーといって、発言を訂正させたり、表現物を撤回させたりするのは該当しない。
2021年12月2日木曜日
平安時代の貴族が自力救済社会に生きていたことが分かる『殴り合う貴族たち』
ぼちぼち話題だった『殴り合う貴族たち』をぼちぼち拝読した。
賢人右府の二つ名を持つ藤原実資さんの日記の記述などを元に藤原道長の頃の平安時代の貴族たちの乱暴狼藉を紹介する本で、貴族の名前が覚えられないので読み進まないことを除けば面白い。
日本史の教科書では平安時代の雰囲気が良く分からないのだが、政府設備だった羅城門跡の礎石を藤原道長さんがくすねたとか、強盗に服を奪われて放置された女官が凍死して犬の餌になってしまった(と言うことになった事件)などの逸話が補完してくれる。
2021年11月23日火曜日
梅田ロフトで開催されたrurudo個展「PLAYROOM」のリボンで隠された乳首と局部の他は裸体の少女の絵の展示を擁護するために必要なことは
エロティックで何が悪い? — と言う開き直りです。まずね。
梅田ロフトで開催されたrurudo個展「PLAYROOM」でリボンで乳首と局部が隠されただけの少女の絵が目立っていると言う指摘があり、店舗が謝罪し、店内の通路からは個展に展示された絵が見えないように遮蔽物が設置された上、問題とされた絵が撤去されることになった(togetter)。この問題よりも、中国のウイグル政策やら、中国テニス選手の失踪劇の方をもっと非難すべきだと言うのは、呆れる露骨さの論点すり替え論法(Ignoratio elenchi)による擁護を見かけた。
2021年11月17日水曜日
『温泉むすめ』は性差別や性搾取とは言えないし、露出度も高くは無いけれども
地域活性クロスメディアプロジェクト・・・と言われてもなんだか分からないが、温泉地ごとに萌え絵のキャラクターをつくって、それらのキャラクターを使った創作物をメディア展開し、観光アピールに役立てようと言うプロジェクト『温泉むすめ』の何人かのキャラクターの設定がけしからんと言うことでネット界隈のフェミニストの非難を浴び、非難されたキャラクター設定が修正され、かつ後援団体が公式ページの一覧から消える事態になった。
2021年11月9日火曜日
『科学哲学の冒険』を読んで社会構成主義者を撲滅しよう
ネット界隈での言い争いで、主張が科学的におかしいと批判されると、科学も社会から影響を受けるもので絶対ではないと言い出し、自説を維持しようとする人々がいる。主張の科学的根拠の信憑性ではなく、科学全体を疑いだす論点すり替え論法と言う詭弁なのだが、あえて話を逸らされてみると、科学と言う営みの正当性どころか、そもそも科学とは何かを説明するのも難しいのが分かる。
2021年11月8日月曜日
オープンレター「女性差別的な文化を脱するために」は、人格への中傷ではなく、主張への批判に対して、社会的制裁を加えろと呼びかけている
ネット界隈でよく表現の自由戦士に批判されている武蔵大学の北村紗衣氏らが差出人となって、「女性差別的な文化を脱するために」と言うオープンレターを公開している。このオープンレターでSNSでの振る舞いを非難されている人物が歴史学者が、問題のSNSでの振る舞いを理由に不当に任期無し雇用への昇格を取り消されたと所属先を訴えたことで、再注目されているのだが、言論の自由を強く抑圧しようと言う主張になっているので注意したい。
2021年11月3日水曜日
第49回衆院選挙で立憲民主党が議席を減らした理由
ネット界隈では2021年10月31日の第49回衆議院議員総選挙で立憲民主党が公示前から議席を減らしたことに関して、立憲民主党の関係者でもないのに反省会が開かれている。政策にしろ、選挙戦術にしろ、多くは枝野幸男代表に敗因があるとしているのだが、どちらかと言うと、自民党の狡猾さ、菅前総理の辞任と岸田総理の早々の解散を称えるべきだ。
2021年11月1日月曜日
コロナ禍によるマスクの品薄が2020年5月に解消したのは中国からの輸入が増えたからで、アベノマスクはほぼ寄与していないよ
安倍政権のときに公衆衛生や経済の専門家に相談もなく唐突に配布した感染予防効果が低いとされる布製のマスクの在庫が未だにあり、それの管理にコストがかかっていることを会計監査院が指摘したと言う報道*1を受けて、「アベノマスク配布によって、不織布マスクを買い占めていた転売屋が焦って一気に在庫を吐き出した」と言い出した人々がいたのだが、各世帯に僅か2枚しか配られず、ほとんどの人が利用もしなかったマスクと、実際のところ在庫を抱える能力が大して無い転売ヤーの市場支配力を過大評価しすぎなので指摘したい・・・と思っていたら、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるマスク需要の急増がマスク不足と価格高騰の理由で、4月から輸入が急激に伸びて問題が解消されたことを、しっかりデータを拾って時系列を整理して指摘するエントリーが既にあった(アベノマスクによる在庫放出論について - 電脳塵芥)。
2021年10月31日日曜日
租税貨幣論は古代日本の貨幣をよく説明しない
税で貨幣を回収することが、貨幣価値を維持し、貨幣の流通を促進しており、何かの実物資産の本位制である必要も、支払手段の強制も必要がないと言う租税貨幣論*1が、古代日本の貨幣によく当てはまると言う話を見かけた。しかし、検討してみたのだが当てはまりは悪い。税と無関係に流通していた私鋳銭もあり、政府貨幣も絹布や麻布との納税時公定交換レートが通貨価値を定めており、支払手段の強制もされていた。
2021年10月22日金曜日
出産適齢期の女性の労働力率と合計特殊出生率には負の相関があるよ
女子の進学率と収入を低く抑えるのが少子化対策の最適解と言う主張に、女性の労働力率と合計特殊出生率との間に正の相関があると言う反論が加えられていたのだが、どちらも問題があるので指摘したい。
まず、女子の進学と就業を減らすのは少子化対策に有効かも知れないのだが、それが女子の厚生改善もたらすとは限らないので最適解とは言えない。少なくとも自明ではない。
2021年10月20日水曜日
日本共産党の皆さん、「子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会的な合意」は既にあるよ
日本共産党が2021年10月31日の第49回衆議院議員総選挙にあわせた総選挙政策で、非実在児童ポルノの規制を訴えていると話題になっている*1。表現の自由戦士の皆さんの批判をざっと眺めてみたのだが、さらっと入れられている誤った前提に気づいていないようだ。「非実在児童ポルノは…誤った社会的観念を広め」に気をとられすぎ*2。
2021年10月18日月曜日
OECD加盟国に限っても、ジェンダーギャップ指数と合計特殊出生率に正の相関はないよ
ジェンダーギャップ指数はかなり癖がある指標で*1、何かの分析で使うのにはお勧めできないのだが、先進国において「ジェンダーギャップ指数が高い(男女格差が少ない)ほど、出生率は高まる傾向」などと言い出す人々をぽつぽつと見かけるようになった。そんな話を請け売りしている社会学の大学教員もいるのだが、そんな傾向は明らかには観察されないので指摘したい。
2021年10月17日日曜日
ネット界隈の侮辱や名誉毀損の取り締まりを厳しくすることは可能なのだが
ネット界隈の罵詈雑言を問題にしたONLINE SAFETY FOR SISTERSなる社会運動をはじめようとした石川優実氏らフェミニストの皆様なのだが、そのウェブページの一文が批判され、さらに批判への対処方法が多数から非難される炎上状態になっている*1。この件に関しては石川氏の対処に非があると思うが、法律によってネット界隈の罵詈雑言を止めようと言う主張自体は一考に価する。
2021年10月15日金曜日
美味しいコーヒーを淹れる5つのコツ
秋が深まりホットコーヒーが美味しくなる季節だが、美味しいドリップコーヒーを淹れる5つのコツがリストされていた*1。ちょっと教条的なその内容をざっと順番を変えて紹介すると、
2021年10月14日木曜日
明治維新のドタバタ感が面白い『氏名の誕生 — 江戸時代の名前はなぜ消えたのか』
尾脇秀和氏の『氏名の誕生 — 江戸時代の名前はなぜ消えたのか』が評判だったので拝読したみたのだが、中盤からツボにはまる面白さがあったので紹介したい。
本書は現在の日本人の名前(氏名)の構造がいつどのように定まったかを、江戸時代からの変遷を追いかけて説明する本だ。こう書くと歴史マニア向けっぽい感じがするのだが、一般の日本史学習者にとって本当は重要な教養であると同時に、開発途上国の行政改革の理解という意味でも重要な逸話の紹介になっている。
2021年10月13日水曜日
安倍内閣の残滓で終わった菅内閣で考える「強い官邸」の御利益
岸田内閣の発足直後だが、菅政権を総括してくれと言う御題があったので振り返ってみた。独自色を出す前に終わってしまったので安倍内閣の残滓と評するのが適切な気がするが、安倍内閣と同様に「強い官邸」の限界を示していた。
2021年10月7日木曜日
社会学方面で移民をどう考えているか分かる『移民と日本社会』
在日韓国・朝鮮人はもちろん、飲食店やコンビニで中国人やベトナム人と接する機会は多いわけで、日本社会に在日外国人が溶け込んでいるのは間違いない。留学生であったり、外国人技能実習生であったり、在留資格は様々なのだが、定義上はすべて移民に分類される。気づいたら日本も移民に随分と依存した社会になっていた。その割には移民政策が選挙の争点になったりしないので不安になる。ぼちぼちと新書のトピックにはなっているのだが。
2021年9月22日水曜日
ひよるな!全国フェミニスト議員連盟
千葉県松戸市「ご当地VTuber戸定梨香」交通安全PR動画が全国フェミニスト議員連盟の抗議を受けて削除された問題に関して、ネット界隈の表現の自由戦士*1から強い反発が生じ、議員連盟に抗議文が送りつけられることになったのだが、「提出した文書は、公的機関としての認識を問うたものです」とかなり弱気で認知的不協和を起こした声明*2が出された。議員連盟から千葉県警などに出された抗議文では、動画の謝罪と削除を求めていたよね?
2021年9月12日日曜日
全国フェミニスト議員連盟が「ご当地VTuber戸定梨香」交通安全PR動画で問題にしていること
ネット論客の青識亜論氏らが、千葉県松戸市「ご当地VTuber戸定梨香」交通安全PR動画削除問題に関して、全国フェミニスト議員連盟の抗議への抗議への賛同を募っている*1。
議員連盟の抗議文は全般的に服飾文化への理解が浅く説明に不明瞭な点があるので、この抗議文への抗議文のように真意を問いただすのは不当ではないが、本来のフェミニズムに反するものと言う批判は適切とはいえないので指摘したい。
2021年9月10日金曜日
千葉県松戸市「ご当地VTuber戸定梨香」交通安全PR動画にある乳揺れ問題
松戸ローカルVTuber戸定梨香の交通安全PR動画に関して全国フェミニスト議員連盟が関係各所に抗議を行い*1、該当動画が削除され、ネット界隈で非難がおきている*2。毎度のことだなと思いつつ抗議文が妥当か検討していたのだが*3、一箇所、意外に無碍にできない指摘がある。
2021年9月8日水曜日
ツイフェミが非難してきた表現物の善し悪しを断定するのに、描かれたキャラクターの設定や物語を知る必要はあるか?
ネット論客の青識亜論氏が、「(表現規制派フェミニスト(以下、ツイフェミ)が)コンテクストから勝手に切り離して(表現物を)読解し、勝手に怒り狂っている」「物語的な文脈の中で…メッセージが読解されなければならない」と批判しているのだが、批評にキャラクターの設定情報が必要な表現物がどういうものかの整理ができていない。娯楽として親しんだ作品は非難しづらいと言う算段で、ツイフェミにまずは作品を読め罠を仕掛けているのであれば賢いが、多くの事例の論評には不要だ。
2021年8月27日金曜日
アフガニスタン邦人・現地人スタッフ救出作戦が突きつける政府専用機は必要なのか問題
想定すべき状況を大きく間違えていて、大型旅客機が無用の長物になっている可能性がある。
政府要人の外遊に利用されていることが多い政府専用機だが、イラン・イラク戦争の時に在留邦人の脱出ためのチャーター便を日本航空(JAL)が拒否したことが導入契機になっており*1、航続距離が長い大型旅客機を選定している理由になっている。政府要人を運ぶだけであればBoeing 787で十分で、先代の747-400や現行の777-300ERを採用する必要はなかった。
2021年8月21日土曜日
ベンサム流快楽功利主義の一意性
話がおかしくないかと言う話をふられて「ベンサム「功利主義」(最大多数の最大幸福)の数学的誤謬」というエッセイを拝読したのだが、確かにおかしい。ベンサムから功利主義では限界効用逓減法則を採用しているので、エッセイで取り上げられているシグモイド関数は功利主義の条件を満たした効用関数にならないから、理想的な配分が一意にならないと言う主張は不適切だ。
2021年8月18日水曜日
タリバン統治になって、大多数のアフガニスタン女性の境遇が良くなる可能性もある
伝統的なムスリム社会の道徳観を持つとされるターリバーンがアフガニスタンを制圧し、多国籍軍がつくった政府が崩壊したため、アフガニスタン女性の今後の境遇が心配されている。しかし、建前ではなく大多数の女性にとっての実質で見たとき、ターリバーンの女性政策は今よりマシかも知れない。
2021年8月17日火曜日
嫉妬が凶行の原因ならば、潜在模倣犯に幸せアピールは逆効果
小田急線刺傷事件に関して「あなたの幸せな瞬間の写真を投稿して抗議しませんか?」と呼びかけているツイフェミの人がいるのだが、加害者と似たような境遇の人々の感情を逆撫ですることになるのが分かっていないようだ。幸せを隠して生きろとは言わないが、抗議ではなく挑発になってしまうことは認識して欲しい。
2021年8月13日金曜日
YoutuberのメンタリストDaiGo氏に、生活保護などの弱者保護の必要性を説明したい
人気YoutuberのDaiGo氏が、生活保護に対する歳出はDaiGo氏の利益にならないと言い出して、多くの非難が集中する炎上状態になっている*1。社会保障の専門家も非難しているのだが、観察範囲ではどうも正当化が弱い。天下り式に人権と言われても、その人権が必要な理由は分からない。同じ社会の他の人々への慈愛が無いメンタリストDaiGo氏でも受け入れられるような、生活保護などの弱者保護の必要性の説明を試みたい。
2021年8月10日火曜日
国際比較をすると、日本の殺人事件・殺人未遂事件の女性被害率は小さい
近年、女性が女性であるために殺されたことをフェミサイドと「定義」し、なぜか日本ではフェミサイドが多いと思わせるような論考*1が人口に膾炙されつつあるのだが、そんなことは言えないので指摘したい。日本は女性の殺人被害者が多いというような主張はデータの見方がおかしいし、そもそもフェミサイドは女性と言う属性への憎悪犯罪のように見せかけつつ、女性が被害者の殺人事件の大半を含んでしまう用語なので、バズワードとして利用を避けるべきだ。
2021年8月1日日曜日
テストステロン分泌量がヒトの運動能力を左右しないとすると
スポーツにおける性別は性染色体で定め、キメラなどの人のために例外規定を設けることになる。
女子の競技大会からのトランスジェンダー女性と性分化疾患(DSD; インターセックス)排除/規制に対するジェンダー学者の批判で、ヒトに分泌される男性ホルモンのテストステロンの量がヒトの運動能力を左右しないと言うものがある*1。現在、国際陸連はテストステロン値が一定以下でないと、女性として競技会に参加することを認めていない。
2021年7月31日土曜日
新型コロナウイルスに、インドが集団免疫を獲得したかも知れない件
新型コロナウイルスのデルタ株で新規感染者数が急増していたインドだが、5月に入って新規陽性者数はどんどんと減っていっている一方*1、抗体保有率が7割に達している事が調査で示されている*2。社会的距離をとるように施策を打っているとは言え、欧米ではデルタ株のせいか人々の心情の変化か上手く機能していないことを考えると、集団免疫を獲得した可能性が高い。このまま安定して減少傾向が維持されるか注目だ*3。
2021年7月26日月曜日
尊厳 — その歴史と意味
哲学者マイケル・ローゼンの『尊厳 — その歴史と意味』がネット界隈の哲学クラスターでぼちぼちと言及されている。尊厳はそこそこよく見かける単語であり、尊厳と言わなくても尊厳を問題にしている気がする不満や苦情は多々ある一方で、厳密にはよく分からない単語でもある。本書は、尊厳と言う単語が何を意味してきたかを整理し、尊厳を尊重すべき道徳的根拠を考察した本だ。
2021年7月23日金曜日
中国のウイグル政策をジェノサイドとすると、漢民族は一人っ子政策でセルフ・ジェノサイドをしてきた事になる
欧米の人権団体が2018年から強化された中国のウイグル政策をジェノサイドだと言い出し、米国政府も同調して非難している昨今なのだが、雑なレッテル貼りである事を認識しておきたい。中国のウイグル政策が人道的に問題なのはそうであろうが、同化政策や出生抑制政策をジェノサイドと認定すると、かなりの事がジェノサイドになってしまう。
2021年7月19日月曜日
パターナリズムにすっかり傾斜しているジェンダー法学者
立憲民主党が性犯罪刑法改正に関するワーキングチームにおける本多平直衆院議員のジェンダー法学者の島岡まな氏らへの発言に関する調査報告書を公開していたので拝読したのだが、現在のジェンダー法学の思想が色濃く出ている文書になっていて興味深かった。
委員長は労働ジャーナリストの金子雅臣氏だが、ハラスメントの有無よりもラディカルな思想の正当性を訴える内容、一般的とは言えない用語、やたらとつける鍵括弧、文脈に関係なく嫌っていそうなモノへの言及が散りばめられた文*1、唐突で無根拠な日本批判*2から、ジェンダー法学者が大部分を書いている蓋然性が高い。
2021年7月17日土曜日
功利主義で表現の自由をどこまで擁護できるか
…と言うネット論客の青識亜論氏から御題があって、だらだら話していたところをまとめておきたい。幾つか観点を追加している。
功利主義は人々の快苦の多寡や選好の強さを合計する快楽計算によって物事の是非を判断し、表現の自由も快楽計算によって判断する道徳的立場。ある表現物の是非を考える場合は、その表現物が誰かに与える快楽と、その表現物が与える苦痛の大きさを比較して、快楽が大きければ善しとする。
㈳Springの性被害の実態調査アンケートからは、性的同意年齢の引き上げの必要性は言えない
立憲民主党の本多議員の騒動に関連して、一般社団法人Springの性被害の実態調査アンケートの中身を見てくれと言われて、ざっと目を通して見たのだが、回答者数が多くても、標本の偏りが激しいネット世論調査の一つの事例になってしまっていた。しかも、同一人物が複数回回答可能とあって、悪戯を排除できているのか疑問もある。サンプリングの問題でこれは完全に信憑しませんと言われても仕方が無いし、統計に真面目な人ほど言いかねない。
2021年7月13日火曜日
ツイフェミは女性の尊厳を毀損していると感じる絵を非難している
…と言う可能性があるので、指摘しておきたい。
自分で自分の主張に「銀の弾丸」と言ってしまっているトランプ節のタイトルの「フェミ炎上にトドメを刺す「銀の弾丸」」と言うネット論客の青識亜論氏のエッセイが流れてきた*1。相変わらずなのだが、ツイフェミが何を感じているのか掴もうとしていない。自分の持つ不満を明瞭に表現できる人は少数なので、ツイフェミの主張の分析をして、その原理を構築する作業をしないと、ツイフェミの議論の弱点は示せない。
2021年7月12日月曜日
ペドフィリア(小児性愛)は犯罪因子と蔑視しておいて問題ない
BUSINESS INSIDER JAPANの記者の竹下郁子氏がペドフィリアの人々(小児性愛者)を犯罪者と同様のように言及したそうで*1、児童性虐待の実行前であれば犯罪者ではない、自制できるペドフィリアもいると非難されていた。しかし、用語定義と現在の社会倫理から、ペドフィリアは犯罪者予備軍と見なさざるを得ないし、犯罪者予備軍と蔑視することは公益に資する面もある。
2021年7月4日日曜日
医療や介護の従事者に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のワクチン接種を原則強制するのは、ハラスメントとは言えませんよ
メディアが医療や介護の従事者や医学/看護学生が新型コロナウイルスのワクチン接種を陰に陽に強制されていることを、ワクチンハラスメントと言い出した。日弁連の人権擁護委員会が大元のようで*1頭が痛いのだが、感染予防策をとっても感染可能性が高かったり、周囲に感染に脆弱な人々がいる環境で働いたり学んでいる人々に、広く利用されているワクチン接種を強制しても違法性は恐らく無いし、社会厚生の改善にもなるから。
2021年7月1日木曜日
「ナチスは良いこともした」を否定するのは困難なので
それでホロコーストの贖罪にはならないとか、そこは過剰評価されているとか言い返す方が建設的。
歴史社会学者の田野大輔氏が未曾有の災禍の元凶であるナチスは絶対悪であるのは常識で、「ナチスは良いこともした」と言うのは不勉強で、ナチスの政策で肯定できるところなど無いと主張している*1。手ごろな新書があるのでそれで勉強しろと言うのは良い提案だと思うのだが、ナチスの実行した政策のすべてが悪いと言うのは論理的に困難で無理がある。
2021年6月30日水曜日
ジェンダー社会学者の石田仁さん、その重回帰分析ではその因果を主張できませんよ
ジェンダー社会学者の石田仁氏が、重回帰の結果をもって「人々のトランスジェンダー嫌悪が少なくなれば、ジェンダー平等感覚の形成は進む」と主張しているのだが、統計的因果推論の手法を使わない限りはそのような事は言えないので指摘したい。トランスジェンダー嫌悪はジェンダー平等感覚や他の潜在変数に影響を受けうるので原因ではなく結果の可能性がある。
2021年6月21日月曜日
「生物学的な性と社会的な性を混同してはならない。」と言うのはトランスジェンダー差別の容認
ニュージーランドで女性としての東京オリンピック2020への出場権をトランスジェンダー女性が得たことに関して、LGBTQへの差別に反対を明言している元有名スポーツ選手が「生物学的な性と社会的な性を混同してはならない。」と言っているのだが、その発言がトランスジェンダー差別の容認になるので指摘したい。
2021年5月23日日曜日
アストラゼネカ社製ワクチンの旧い有効率が示すメディアの盲目的な請け売り
モデルナ社製とアストラゼネカ社製の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンが承認された*1ので、にわかにファイザー社製と比較した表をメディアがよく提示しているのだが、なぜかアストラゼネカ社製の有効率が70%と旧い数字が載っている*2。
昨年11月ぐらいに2回目の接種量を半分にしたら有効率が90%になったと言う報道があり*3、最近もアメリカの第3相試験で発症に対して有効率79%、重篤化に対して有効率100%の結果だった*4、イングランド公衆衛生局(PHE)は週次調査報告書で89%としている*5と、外国メディアでは報じられていたのだが、外国メディアの報道はあまり見ないのか、どうもメディアの皆様の耳には入らなかったようだ。
2021年5月19日水曜日
必要なのはワクチン開発拠点ではなくて、治験の統計処理のベイジアン化
英米イスラエル辺りと比較してワクチン接種が遅れている我が国だが、ワクチン研究開発拠点を作ろうと言うアイディアが持ち上がってきた*1。しかし、微妙に問題点が摩り替えられている。ワクチンの確保もしくは承認がボトルネックだったわけで、国産ワクチンの開発は問題解決に直結しないし、国産に拘るあまりに外国製品の確保が遅れるような事態も危惧される。そして、もっと素朴な方法で解決できる。
2021年5月5日水曜日
貨幣価値がベイズ推定されてきたことが分かる(かも知れない)『撰銭とビタ一文の戦国史』
そもそも通貨とは~と語っている人々の我田引水や牽強付会*1を指摘するために、『撰銭とビタ一文の戦国史』を拝読した。本書の著者の高木久史氏はずっと中世から近世の貨幣を研究している人で、2018年と比較的新しい本書はこういう用途に最適。悪銭やビタといった単語が示す意味がそう自明でもないところに歴史研究の難しさがわかって興味深い一冊で、記述の端々から貨幣研究も史料と発掘で進められていることも分かる。
2021年4月26日月曜日
ツイフェミは「非モテの男性の苦しみ」を性の自己決定権を侵害しない方法で解決しろと言っている
ネット論客の青識亜論氏が、氏の誤った脳科学の知識のツイート*1についたネット界隈のフェミニスト(以下、ツイフェミ)のリプライから、ツイフェミは快楽功利主義に近い価値観があると主張しているのだが、二重、三重に捩れた議論になっている。我田引水の藁人形論法のように見え、対話を求める姿勢とは言えない。
2021年4月16日金曜日
恋バナ好きおっさん/おばさんのための『セックスと恋愛の経済学』
ネット界隈ではいい歳をしたおっさん/おばさんが日夜、恋愛や結婚に関しての議論を繰り広げている。ツイフェミの皆さんが根拠不明な規範的な話をしている一方、反ツイフェミの皆さんの多くが体験談か周囲から聞いた限りの実証的な話をしていてまったくかみ合わない感があるのだが、社会学や経済学で恋バナの研究は色々あるし一般書も幾つも出ている*1ので、インプットを増やして議論の質を向上させて欲しい。
2021年4月3日土曜日
ネット界隈の弱者男性論者の本音
男性が生得的に抱えがちな性格上の問題に対して、社会はもっとフォローすべきではないかと言う話ではなく*1、収入が十分に無い男性は女性に性的パートナーとして見てもらえず、結婚をして子供ができてもその性役割でしか評価されないことを「つらい」と嘆く、弱者男性論が非難されているエッセイ*2が話題になっていたのだが、弱者男性論者の本音を見誤っている気がしてならない。
2021年3月31日水曜日
主観的な事前分布への違和感を軽減してくれる『異端の統計学ベイズ』
伝統的な頻度主義の統計学を最初に習うので、学部の講義でベイズ統計学を教えているところは少ない気がするのだが、最近はベイズ統計学の応用が広まっているし、大学院の講義があるところは多いと思う。しかし、数学や統計学の講義は形式的になりがちで、(教員が説明したくても時間が限られているため)その歴史的は説明してくれない。歴史を知らなくても数理的な特性だけ理解できればよいと言う人もいるのだが、歴史を知るとその便利さが分かるし、何より親近感を持てるようになるものだ*1。
2021年3月28日日曜日
「負の性欲」でツイフェミの振る舞いは説明できないよ
歴史学者の舌禍事件の余波かTwitter発の概念「負の性欲」への言及が増えていたのだが、この用語を広めた白饅頭こと御田寺圭氏のエッセイ「「負の性欲」はなぜバズったのか? そのヤバすぎる「本当の意味」」に気になるところがあったので指摘したい。「負の性欲」でツイフェミの振る舞いは説明できない。
リベラリズムの倫理を批判し共同体主義を説く本『これからの「正義」の話をしよう』
先日、ネット論客の青識亜論氏が『これからの「正義」の話をしよう』に言及していた。NHKのテレビ番組「ハーバード白熱教室」で日本での知名度が上がった、ハーバード大学のサンデル教授の著作。書いてあることを我田引水してきて妙な誤解が広まらないか不安に思って、適時苦情を申し立てられるように中身をチェックしたついでに感想を記しておきたい。
2021年3月24日水曜日
徳倫理は専門家にお任せと言う意味でのエリート主義ではないよ
社会哲学者の稲葉振一郎氏が新著の宣伝で「権威主義はびこるダークな世界で、エリート主義な「徳倫理学」が流行る「意味と危うさ」」と言うエッセイを書いているのだが、徳倫理が専門家にお任せすればよいと言う意味でのエリート主義になっていて奇妙な話になっている。エリート主義と評されることがあっても、それは美徳を知るエリートでないと幸福になれないと言う意味で、職業的専門家依存主義ではないから。