マルクス経済学者の松尾匡氏の連載の続き『なぜベーシックインカムは賛否両論を巻き起こすのか――「転換X」にのっとる政策その1』が出てきた。今回はやや趣向が変化しており、社会保障分野の中でも特定化されたベーシックインカム(以下、BI)について議論している。話題になっているので取り上げているのだと思うが、社会保障としては重要な視点が議論から抜け落ちているので指摘したい。
2014年4月30日水曜日
数学徒ではなくプログラマ向きの「数学ガール/乱択アルゴリズム」
数学ガールのシリーズの中で一つ異質な副題を持つのが、「数学ガール/乱択アルゴリズム」だ。乱択アルゴリズムは著名な数学の予想問題ではないし、聞きなれない単語だと感じる数学徒が多いと思う。実際に、シリーズの他のタイトルが理学的な内容であるのに対して、本書は工学的な側面が強いものとなっている。数学の部分はシリーズ中もっとも易しく、数学徒向けと言うより、プログラマもしくはプログラマ志望者向きと言えるであろう。
2014年4月29日火曜日
金融危機と金融行政の歴史
The Economistで第一合衆国銀行設立から大恐慌までの金融危機の小史を紹介していた。南海泡沫事件やリーマン・ショックは省略されている事になるが、興味深い。金融危機は永続的ではないが繰り返し発生する災害で、その度に金融機関の保護が強まる傾向があるそうで、現在ではそれが過剰になり、金融機関が暗に政府援助に依存するようになっているそうだ。現代の金融事情はさておき、列挙されている歴史的事実は興味深い。小史をさらに圧縮しようと言うのに無理があるわけだが、内容をざっと紹介してみたい*1。
2014年4月26日土曜日
駄洒落は面白い「数学ガール/ゲーデルの不完全性定理」
良く知らない分野の本を手にすると、往々にして文字が意味の無い絵に見えてくるゲシュタルト崩壊が起きるものだが、「数学ガール/ゲーデルの不完全性定理」も例外ではなかったようで、かなり読み進めるのが辛かった。ゲーデルの不完全性定理の主張と証明の大雑把な流れは理解できたものの、難解な定理はラノベ風味にしてもやはり難解な印象を受ける事は変わらないことが分かる。著者はかなりの準備期間をもって執筆したようだが、普段は目にする機会の少ないメタ数学の一般書が困難である事を示すことになったようだ。
2014年4月22日火曜日
スパイス、爆薬、医薬品 — 世界史を変えた17の化学物質
歴史の本は色々あるのだが、『スパイス、爆薬、医薬品 — 世界史を変えた17の化学物質』には、化学物質から見た切り口がこんなに面白い事を思い知らされた。
普通の歴史の本では、何かが発明された、何かの交易が高まったと、財についてはぶっきら棒に叙述され、その財がいかに革新的なものであったか理解するのは難しい事が多いように思える。本書は財の成分である化学物質にまで踏み込むことで、その革新性を良く説明することに成功している。著者の化学者二人は歴史の要因は複数あると控えめだが、化学物質が政治や経済を決定して来た事に疑念を抱かせない。そして化学畑の人でなくても、化学構造式が便利な道具だと良く分かる秀逸な本だ。
2014年4月21日月曜日
英国でTOEICの組織的不正が疑われ、TOEICとTOEFLでVISAが取れなくなる
貸金業法改正の是非を議論する前に読むべき論文
自民党が貸金業の金利規制緩和を検討している(日経)ことから、2006年12月の貸金業法改正で行われた、消費者金融のグレーゾーン金利廃止と貸付額を借手の年収の三分の一までに制限する総量規制の効果について、例えば金利上限を定めることで、闇金の利用者が増えたのか、そうでもないのかといった論点で、SNSで色々と議論が飛び交っている。しかし、資料の裏づけが無いので情報不足な感じが否めない。せめて早稲田大学の消費者金融サービス研究所がワーキング・ペーパー*1を公開しているので、それに目を通してから色々と考える方が建設的だ。
2014年4月18日金曜日
ジェット・エンジンに使われている技術
小学生向けの図鑑本が大好きなので、ふと目に付いた『ジェット・エンジンの仕組み』と言う本を手にとって見た。ぱらぱらぱらと読んでみて、ちょいガチ感が溢れていて、正直ちょっと後悔した。ジェット・エンジンの原理を説明しているのでは無く、むしろジェット・エンジンの設計や製造に使われている要素技術を説明している本で、あとがきによると触れることができなかった事項も多いようなのだが、かなり広範な話題が詰め込まれている。
ブレインストーミングは役立たず
パリ国立高等鉱業学校のAkin Kazakci博士と他3名の研究者が比較実験を行い、ブレインストーミングで様々な角度から多くのアイデアを出すことは、アイデアの質を高めないと指摘している(Mail Online)。アイディアの量が質に転換するという、ブレインストーミングのキャッチコピーは間違いだったようだ。この結果は来月のDesign Computing and Cognitionカンファレンスで報告されるそうだが、雲を掴むようなアイディアを並び立てる上司にぜひ教えてやりたい結果となっている。
2014年4月17日木曜日
井上久男に感じる現代ビジネスの組織的欠陥
『小保方晴子氏を「犠牲者」にした独立行政法人・理研の組織的欠陥』と言う記事があがっていた。著者の井上久男氏はかつて大学院でベンチャー論を研究しており、国立大学法人でも2年間特任講師を経験したそうだが、本当にアカデミックなポストに就いていたのかが謎な感じだ。現代ビジネスと言う週刊誌が、井上氏を混乱させているのであろうか。主張の是非もそうなのだが、日本語の作文として破綻してしまっている。
2014年4月15日火曜日
邦題がおかしい「世界は貧困を食いものにしている」
原題は「あるマイクロファイナンスの異端者の告白 ─ どのようにマイクロ融資が道を誤り貧困者を裏切ったのか」の「世界は貧困を食いものにしている」を拝読したのだが、ヒステリックに貧困層向け小口融資であるマイクロファイナンスを否定している本と言う当初の予想に反して、自伝的にマイクロファイナンス業界の問題点を内部告発している本であった。経済分析のところで気になる点はあるのだが、マイクロファイナンス機関(MFI)やMFIファンドの実態は興味深いし、アフリカのような途上国で事業を行うときの体験談の部分も貴重だ。邦題が空回りしているのが残念だが、開発援助に興味がある人は一読してみる価値はあると思う。
2014年4月12日土曜日
悪意があれば懲戒解雇、悪意が無ければ普通解雇
捏造、改竄、剽窃が認定された理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの小保方晴子氏が開発したとされる刺激惹起性多能性獲得(STAP)幹細胞のNature誌に掲載された論文だが、理研の管理責任を問う声があがる一方で、早稲田大学の教育体制やその学風まで中傷し、さらに彼女の中学生の頃の読書感想文まで持ち出して人格攻撃を開始している人々もいる一方で、日本の科学研究の信頼が揺らいでいると危惧する人も出てきた。そんな中、調査委員会の最終報告書が公表され、その後、小保方氏の記者会見が行われた。世間で小保方氏に同情の声が上がっているらしい*1が、その主張を汲み取っても、実質的な処分は変わらないであろう。
2014年4月10日木曜日
女の職場の敵は女
体感的に女性上司は女性部下に厳しいと思っている人は少なく無いと思うが、英国のOpportunity Nowと言う女性の組織的運動グループとプライスウォーターハウスクーパース社の会計士による大掛かりな調査でその傾向が確かめられたようだ。
Mail Onlineが、23,000人の女性と、2,000人以上の男性に調査したところ、職場で女性をいじめるのは、男性と言うよりも、むしろ女性の同僚か女性の直属の上司と言う事になる傾向が判明したそうだ。28歳から40歳の四人に一人は過重労働や恒常的な批判で間接的に攻撃された経験があるそうだ。八人に一人はセクハラも受けている。
ミルカ様が狂人風の「数学ガール/ガロア理論」
ふと軽い読み物が欲しくなって「数学ガール/ガロア理論」を手にとって見た。期待通りに軽い感じなのだが、方程式の解の公式が存在できる条件を示したガロア理論の概要だけを知りたい人には良い本になっていると思う。また、私のように群論をちょっとだけ勉強した人には、復習教材として良いかも知れない。もちろん群論やガロア理論に興味をかきたててくれる一冊であるから、本格的な数学書を読む前の前菜としてもお勧めできる。
2014年4月6日日曜日
文系作文のイロハを知らない高橋乗宣
民間エコノミスト出身の高橋乗宣氏が、「論文のイロハを知らない理系研究者」と言う挑発的なタイトル*1の記事で、STAP(幹)細胞騒動について理研を批判して、理系研究者の怒りを買っている。ところがこの記事、文系作文として批判に耐える水準に達していない。文献を読み込んだ形跡が無く、事実誤認のところが多いからだ。
2014年4月5日土曜日
大学教員が求める基礎力がつく『数学は言葉』
マクロ経済学者の荒戸寛樹氏が新入生にお勧めしていた『数学は言葉―math stories』を拝読してみた。英語のサブタイトルが謎*1なのだが、社会科学系の大学教員が新入生に求める基礎力がつく本になっていると思う。こう言うのが分かってい無い子が多いよな~と思う事が、色々と説明されているからだ。しっかりと読み込めば、命題や定理といった数学の基本的な用語や、論理式や証明手順を理解する事ができる。高校数学の復習とも、その先を見据えた準備とも取れるが、学ぶことは多い。
2014年4月3日木曜日
テトラちゃんが女で怖い「数学ガール」
ラノベに新しい境地を開いたと名高い「数学ガール」を拝読してみたのだが、文学的に違和感が色々と残る作品だった。
内容は、妙に馴れ馴れしいミルカとテトラと言う少女二名と、妙に意識の高い系かつ性的関心の薄い「僕」が数列などから切り込みフィボナッチ数やカラタン数を説明したあとに、母関数を学び、、ゼータ関数やバーゼル問題につなげていくお話だ。本書のあとに出た『離散数学「数え上げ理論」』を読んでおくと、数学の部分は理解しやすいと思う。
2014年4月2日水曜日
研究とは何か感じられる「栄養学を拓いた巨人たち」
「栄養学を拓いた巨人たち」は、栄養学の歴史を人物史を通じて紹介していく本。そう堅い内容の本でもなく、研究とは直接関係の無い愛憎も紹介されるが、著者の杉晴夫氏が科学者だけに、新発見をどうやって得たか研究手法の紹介にページが割かれており、中高の理科の補助教材としてもお勧めできそうな内容になっている。また色々な失敗談が詰まっており、科学研究にまつわる教訓談としても読めるはずだ。
2014年4月1日火曜日
イスラームから見た「世界史」
デモ、テロ、革命、戦争などの騒乱のニュースと言えば中東と言う事になるが、中東事情に詳しい日本人は多くはいないと思う。日本に限らず、欧米でも中東事情に詳しい人は少ない。もし多ければ方向性の定まらない政治混乱を、『アラブの春』と命名する事は無かったはずだからだ。
世界史を勉強し、解説記事を読んでいれば、シーア派、スンナ派、ジハードなどの用語には詳しくなれると思う。しかし、それらの言葉がいつどのような経緯で出来たものか説明できるようにはならない。そして、単語を断片的に知っているだけでは、中東事情を理解するのには、心もとない。