2014年4月22日火曜日

スパイス、爆薬、医薬品 — 世界史を変えた17の化学物質

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歴史の本は色々あるのだが、『スパイス、爆薬、医薬品 — 世界史を変えた17の化学物質』には、化学物質から見た切り口がこんなに面白い事を思い知らされた。

普通の歴史の本では、何かが発明された、何かの交易が高まったと、財についてはぶっきら棒に叙述され、その財がいかに革新的なものであったか理解するのは難しい事が多いように思える。本書は財の成分である化学物質にまで踏み込むことで、その革新性を良く説明することに成功している。著者の化学者二人は歴史の要因は複数あると控えめだが、化学物質が政治や経済を決定して来た事に疑念を抱かせない。そして化学畑の人でなくても、化学構造式が便利な道具だと良く分かる秀逸な本だ。

本書で取り扱う化学物質は、化学物質と言ってもビーカーで何かをかき混ぜて作らないといけない物質には限られない。香辛料、かんきつ類、砂糖、木綿など、身近な物も多く紹介されている。これらが発見・利用されるようになった経緯や、社会を変革した理由について、その構造や性質から理解しようと言うのが本書のアプローチになる。つまり、主要成分となる化学物質がどのような特徴を持つのか、化学物質と化学物質がどのような関係にあるのかを、化学構造式を用いて説明しているわけだ。

原著者たちは化学構造式を掲載するか迷ったらしいが、化学構造式が無ければ面白さは半減していたと思う。似たような化学物質を比較する上で、やはり化学構造式は差異を明確にしてくれる。第八章では天然ゴムが伸びる理由を説明したあとに、それに硫黄を加えて加熱することで弾性と耐熱性を与えられる事が叙述されるが、横に繋がっていくイソプレン同士を縦に結び付ける位置に硫黄のSがある事で、加硫で何が起きるのかがはっきりする。モルヒネとニコチンが似ているのも、化学構造式でアルカロイドが示された方が分かりやすい。

化学構造式が味を出しているからと言って、化学構造式を見慣れない人を排除しているわけではない。序章で化学構造式をしっかり説明しているし、研究開発の経緯や社会的影響は文章になっていて、そちらも魅力的な逸話が詰まっているからだ。一つ一つはどこかで聞いたようなものもあるかも知れないが、十七章の全ての知っている人は稀であろう。小噺豊富な人間になれそうだ。例えばマラリア特効薬のキニーネの生成に関して役立つはずの19世紀初頭の論文が、限りなく捏造らしいことが紹介されていた。半年前に読んでおけば再現性の無い科学論文は二百年前からあるとドヤ顔できたのに残念だ(´・ω・`)ショボーン

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