岸田内閣の発足直後だが、菅政権を総括してくれと言う御題があったので振り返ってみた。独自色を出す前に終わってしまったので安倍内閣の残滓と評するのが適切な気がするが、安倍内閣と同様に「強い官邸」の限界を示していた。
振り返ると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策に追われ、これで内閣支持率を落とし、党内の信頼も失ったのが、菅内閣の1年であった。こう書くとダメ内閣と言っているようだが、日本の他の政治家が菅氏より上手くできたかは疑問だ。
- 徹底した感染症対策をとらずに、GoTo政策に傾斜しようとして、感染者数が増えて・・・と言う優柔不断なところを責めたくなるが、選挙のために政治家はどうしても献金者や支持者の陳情に弱い。全国の知事も往々に飲食業や宿泊業に配慮している。
- 韓国や台湾と比較すると手配は早いが欧米イスラエルには負けていたワクチンの手配は賛否が分かれるが、日本ができるところはこんなもんか感がある。企業が立地する国の政府の方が交渉力は高いであろうし、イスラエルのように研究開発に全面協力ともいかない。データシートも公開されていなかった中国製の手配は無理があったし、地方自治体へのワクチン配布の「遅れ」は生産限界なのは明らかだ。アストラゼネカ製の国内増産でワクチン接種のペースをもう少し前倒しできたかもだが、台湾やベトナムに供与したのは外交的に大きな得点になった。
- メカニズム・デザインに詳しいアドバイザーがいないのが惜しいところであった。早い者勝ちの予約システムはどうかしているし、地方自治体がスケジュールを理解していなさそうだとか、職域接種を実施企業が自社サービスのように使い出したし、さらには職域接種2回目接種難民の発生など細かい問題が多発した。
- 東京オリンピック2020は感染拡大にはほとんど寄与していないと言うか、閉幕直後に感染者数が減りだしたので、むしろ感染抑制になった可能性すらある。
- 前任者の突然の思いつきの全国一斉休校要請やアベノマスクのような施策が無い。
自民党の支持者の意向的に、感染抑制重視派にも経済活動重視派にも不満が残る施策しか取りようがなかった可能性は高い。国外比較で結果も悪くは無い。覚悟してコロナ禍の中で党の代表戦に挑み総理になったとは言え、アメリカのどこぞの州の口の立つ知事の無能っぷりと比較すると菅氏に同情する。
しかし、人事権を握ることで官僚を強くコントロールする集権的な官邸でも、こんな程度のCOVID-19対策が限界であったとも言える。官僚を強く支配しても、与党支持者の陳情が無視できるようになるわけでも、地方自治体の反発を押し切れるようになるわけでもない。説明能力の欠如した総理が、リーダーシップを発揮している感を出すことも無理だ。
官邸への権力集中自体の是非は単純な話ではなく、分権的な制度だったらもっと良かったとも言い難いのだが、安倍–菅内閣のCOVID-19対策は「強い官邸」の御利益の限界を示していた。強い官邸には弊害もある*1ので、今後は官邸への権力集中が停滞するかも知れない。今後の政権が自らその支配力を弱める動機はないので、現状より弱まる可能性は低い*2が。
2 コメント:
デジタル庁、高齢者の医療費負担、不妊治療の保険適用、重要土地規制とか色々ありましたが、あえて書いていないということは、別にそんな大した功績でもないという評価ということでしょうか?
>> マコト さん
確かにその辺も評価すべきでした。
医療制度改革関連法と福島第一原発のトリチウム水の海洋放出決定は政治的に難しい問題を思い切って決断した感がありますね。土地利用規制法案も中国資本の土地取得に対する不安払拭の効果があるのではないかと思います。
デジタル庁は人事が機能するのか良く分からないので評価しづらく、不妊治療の保険適用は他にやるべきことがあるので、党内か一部支持者の人気とり感がありますね。
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