在日韓国・朝鮮人はもちろん、飲食店やコンビニで中国人やベトナム人と接する機会は多いわけで、日本社会に在日外国人が溶け込んでいるのは間違いない。留学生であったり、外国人技能実習生であったり、在留資格は様々なのだが、定義上はすべて移民に分類される。気づいたら日本も移民に随分と依存した社会になっていた。その割には移民政策が選挙の争点になったりしないので不安になる。ぼちぼちと新書のトピックにはなっているのだが。
その中で『移民と日本社会』は、日本の事情や研究だけではなく欧米を中心にした移民研究の知見も元に日本の移民政策を包括的なトピックで考える本で、読んでおくと色々と参考になる。表題から日本にいる在日外国人のグループに焦点をあてた本なのかと思っていたのだが、もっと俯瞰的な本だ。社会学者の書いた移民の本と言うと、少数派エスニシティが迫害されているとか、その権利を擁護しろと説教しだしそうな気がしてくるが、そういうわけでもない。第5章で政策的含意を議論しているが、著者の見解は概ね穏当に思えた。しかし、以下で細かいところに難癖をつけておきたい。
企業が日本人が優先して雇用し、日系ブラジル人は次点にしていると言う話をした後、リーマンショックのときに日系ブラジル人の失業率が日本人よりも高かったことから、「移民労働者の労働条件が、日本人労働者の参入によって悪化した」(p.106)と説明しているのだが、単に日系ブラジル人は有期契約で働いていたので雇い止めを受けやすかっただけでは無いであろうか。当該期間に日系ブラジル人を解雇か雇い止めて日本人を雇った企業が多いとは聞かないし、日本の労働法ではそのような置き換えは困難だ。
「移民が増加する地域とそうでない地域の特性の違いを考慮した分析が可能な「操作変数法」」(p.145)と言う説明、あっているような、そうではないような感じだ。この説明だと明示的にコントロールを入れた重回帰分析で済みそうな気がする。移民が集まると犯罪発生率が高まるのか、犯罪発生率が高く家賃が安い地域に移民が集まるのか、双方向の因果効果が考えられるとき、犯罪発生率と独立で移民の集積をもたらす地域の特性を用いて因果効果を推定する手法・・・と説明するべきな気がするが、これだと説明が長すぎるか(´・ω・`)ショボーン
極右政党(フランスの国民戦線)を人種/民族差別主義者に説明なく認定している(p.185)。
「二重国籍は日本とドイツ、オランダを除く国々で認められている。また、ドイツ、オランダでは例外として認められる場合も多い…ドイツでは…国籍放棄が困難な国では放棄の申請が必要ない」(p.202)とあるのだが、日本もフィリピンやブラジルなどの国籍離脱ができない国の出身者は国籍離脱することなく帰化が認められる。元サッカー日本代表の三都主や闘莉王が代表例。なお「二重国籍のままで帰化」は、帰化したあとに二重国籍になるわけで、日本語がちょっとおかしい。
外国人労働者の定住を認めないと「一定期間後にすべての移民の帰国確認が必要」だとしている(p.263)が、電子化されれば「出入国管理のコスト」は大して増えないかも知れない。
以上だが、議論の本筋に関係あるところはない。
本書は新書とは言え学術書の趣きがあって、興味深い逸話などが散りばめられているわけではないのだが、あとがきのシンポジウムでパネリストと参加していたある国会議員が「(外国人研修生/技能実習生の)待遇を改善して十分な賃金を出したら、地方の農家や零細企業は潰れてしまう、皆さんは潰れろと言うんですか」と言う話(p.273)は、外国人技能実習制度の本当の目的を示す興味深い話であった。あと、在日韓国・朝鮮人の話が薄く、日系ブラジル人の話が厚いところで、時代の変化を感じる。
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