女子の進学率と収入を低く抑えるのが少子化対策の最適解と言う主張に、女性の労働力率と合計特殊出生率との間に正の相関があると言う反論が加えられていたのだが、どちらも問題があるので指摘したい。
まず、女子の進学と就業を減らすのは少子化対策に有効かも知れないのだが、それが女子の厚生改善もたらすとは限らないので最適解とは言えない。少なくとも自明ではない。
次に、女性の労働力率と合計特殊出生率との間に正の相関があると言うのは、2005年の内閣府男女共同参画会議「少子化と男女共同参画に関する専門調査会」の資料の図表1が元ネタではあるのだけれども、
- OECD加盟国のデータの中の特定の国が理由の説明なく選ばれている。2005年時点で30か国あるはずだ。そして、OECD原加盟国のトルコがどうも除外されている*1
- 文化や宗教などの国ごとの固定効果の影響を女性労働力率と合計特殊出生率がそれぞれ独立に受けているかも知れないし、統計的に強い話ではない
と言う問題がある。
2000年時点のOECD加盟国でつくると以下のようになって、正の相関は消える。
以上のプロットからは、負の相関があるとは言いがたい。しかし、ほんのもう少し精緻な分析をすると、負の相関は出てくる。
- まず、最初の仮説が、出産適齢期の女性にとって学業や仕事と妊娠・出産は両立できないので、外部労働参加を抑えろと言う話であったことを思いだそう。15歳から64歳までの生産年齢人口ではなく、25歳*2から39歳までの女性の労働力率を見るべきだ。
- 次に、国ごとに2時点の数字の差分をとって、文化や宗教などの国ごとの固定効果をコントロールしよう。固定効果も時間とともに変化するわけだが、そう大きくは動かないと考える。
以上の考慮から、2019年と2001年の25歳から39歳の女性の労働力率の差と、2019年と2001年の特殊出生率の差をプロットすると、以下のようになってOECD加盟国のデータでも出産適齢期の女性の労働力率と合計特殊出生率には負の相関があることが分かる。
なお、2021年時点の全加盟国のデータがとれるのは2001年から2019年であった。1987年と2019年の差分で負の相関の頑強性は確認してある*3。
負の相関を出したわけだが、解釈には注意がいる。相関があるだけで因果は逆かも知れない。つまり、仕事に忙しいから出産しないのではなく、出産しないから仕事をしているのかも知れない。この分析からだけでは、女子の進学率と収入を低く抑えるのが少子化対策として有効なのかは分からない。未知の変数が二つを決めているだけで、どちらも原因ではないこともある。
2 コメント:
いつも冷静で丁寧な分析をありがとうございます。
こちらのの記事で
>以上のプロットからは、負の相関があるとは言いがたい。しかし、ほんのもう少し精緻な分析をすると、正の相関は出てくる。
正と負が逆ではないでしょうか。
その方が全体の文意が通るのではと考えました。
見当違いでしたらまことにすみません。
>> kakinotanenomoto さん
誤記です。訂正しました。
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