空想科学小説的な話は大好きで、フリードマンも尊敬しているが、何事も芸が緻密でないと面白く無いものだ。
「国の債務を全て返済すれば何が起きるのか」と言うエントリーがあって、「中央銀行が、政府債務と引き換えにお金を発行する、ということはその債務が全て返済されれば、市中に流通するお金はもはやない」と言っている。そのエントリーの主張自体が矛盾しているのだが、一応、問題点を指摘したい。
1. 日本語の問題 ─ 政府債務⊂債務です
まずは政府債務が債務に含まれる事を理解していない事を指摘しよう。
1941年9月30日の下院銀行通貨委員会の公聴会の当時のFRB議長と議員の発言を引用している。さらに引用しよう。
以下の部分では、通貨と国債を交換したと言っている。
Mr. Patman: "How did you get the money to buy those $2 billion of Government securities?" (20億ドルの国債購入資金はどうやって入手しましたか?)
Mr. Eccles: "We created it." (我々が創りました。)
Mr. Patman: "Out of what?" (どっからですって?)
Mr. Eccles: "Out of the right to issue money, credit." (信用貨幣を創造する権利によってです。)
Mr. Patman: "And there is nothing behind it, except the Government's credit?" (つまり、政府の信用以外には何もない、ということですね。)
以下の部分では、通貨と(政府や銀行等の)債務が対応していると言っている。
Mr. Patman: "Suppose everybody paid their debts, would we have any money to do business on?"(もし、全ての人々が債務を払ってしまえば、経済活動を行うためのお金は全くなくなってしまうと?)
Mr. Eccles: "That is correct."(その通りです。)
話題が変わった部分を合成して、おかしくなっている。前半は国債の話で、後半は政府や民間の債務全体の話だ。
2. 日本銀行の資産内容を見てみよう ─ 貸出金も多い
問題のエントリーには、どう見ても日本銀行の資産構成を示したグラフがあるのだが、ブログを書いた人はグラフを読むことも出来なかったらしい。国債以外の資産がある事が明らかに分る。国債以外の資産の裏づけで通貨を発行しているのを示しているのに、国債以外の裏づけで通貨を発行できないと主張するのは、明らかな矛盾であろう。
一応説明すると、中央銀行にもバランス・シートがあって*1、資産と負債・資本を対応させている事が分る。日銀の負債の大半は発効した通貨で、資産の大半は債権だ。現在の日本銀行の場合は、6割が国債で、3割が貸出金、後は外国為替が4%強ある。金も756トン持っているはず*2だが、見た資料では省略されていた。
3. 政府債務が消えたら、日銀の資産内容が変わります
何はともあれ、国債が無くなっても他の資産を買えばいいので問題は無い。本当に国債がなくなったら、貸出金以外のオペレーションも可能なように、社債や土地などを買う事になるのであろう。
そう言えば、積極的なリフレーション政策として株式投信や不動産投資(REIT)等の危険資産を日銀が買えと良く言われていると思うのだが、問題のエントリーを書いた人は「りふれ派」なのでは無かったのであろうか?
追記(2012/07/20 10:40):純政府債務残高がマイナスの2009年のオーストラリアや、私鋳貨幣や代用貨幣の事例、さらに日銀の資産に国債以外も存在する事などを指摘されたエントリーの作者が、謎な事を言い出した。
「市中銀行が単独で信用創造できる」説が出てますが、その元のベースマネーは紙幣(裏付け:国の借金)と、日銀当座預金でこれは大本をたどれば政府からの民間へのマネーが銀行に預けられたものかと / “国の債務を全て返済すれば…” htn.to/regPu2
— シェイブテイルさん (@shavetail) 7月 19, 2012
コメントで指摘されている「中央銀行が国債無しで通貨供給できる」と「市中銀行が単独で信用創造できる」は別の意味なのが理解できていないようだ。
*1ゆえに金利が上がって国債価格が暴落すると見合い資産不足が起きたりする(関連記事:日銀がリフレーション政策を嫌がる理由)
*2関連記事:新興国の中央銀行が金を買う時代
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