三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済・社会政策部主任研究員の片岡剛士氏が、頓珍漢な日銀批判を行っていたので批判したい。
まず全般的に、通常時の金融政策が無効になる「流動性の罠」にある事を認識していない事が問題に感じる。「流動性の罠」とは、名目金利の非負制約から、どんなに中央銀行が通貨供給を行っても、金融緩和が実現できない現象だ。
だから以下のような主張が出てくる。
円高やデフレは貨幣的現象であって自然現象ではありません
通貨供給量が物価を決定するのは、「流動性の罠」に無いときであって、今の日本ではない。ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』を参照しているが、ケインズは投資家が現金保有でいいやと思う名目金利のときは、財政政策を行うべきだと言っている。
為替レートに関する事実誤認も気になる。
2月14日の「目途」公表後に予想インフレ率が上昇し、3月末にかけて為替レートが円安に向かい、株価が上昇
以下の図を見れば分かるが、2月3日の米雇用統計の発表後に円安傾向が確定しており、2月14日の後にトレンドが変化したわけではない。米国の景気が回復すると思えば、期待収益率が高くなるのでドルが買われる。
3月10日に発表された2月の米雇用統計はそこそこ好調(Reuters)、4月6日に発表された3月の米雇用統計は期待よりも不調(産経ニュース)だった。5月5日、6月2日の雇用情勢は足踏みで為替レートも大きな動きが無い*1 。
そもそもインフレ率が為替レートに影響を与えるには3年や4年はかかると言われているし、インフレの目処1%と言う実に紛らわしい発表にアナウンスメント効果があるのかも疑わしい。
さらに、片岡氏は日銀批判も中途半端だと言い放つが、データはそれを否定する。
日銀の金融緩和はいつも中途半端で、十分な効果が得られていません。
中途半端な日銀の金融緩和だが、FRBやECBよりもGDP比のマネタリーベースは多いわけだが(日本銀行(2011)図表4)。他の国が数倍に増やしたのは、ゼロ金利でもなかったし、そもそもマネタリーベースが少なかったからだ。
片岡氏がリフレーション政策が好きなのは分かるが、理論やデータから主張が裏づけられるものかは、もっと慎重に考えた方が良いように思える。盲目的に日銀を批判するのは、むしろ片岡氏が無謬性の罠にはまった結果では無いであろうか。
*11月6日の米雇用統計が良好だったのにも関わらずドル高になっていない面もあり、必ずしも米雇用統計が為替レートを決定するわけではない。ただし、2011年12月2日は市場予想を下回っており、二ヶ月連続の良好な指標に好感したとも解釈できる。
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