2025年11月6日木曜日

デジタル庁苦し紛れのFinOps推し

私が検索する限り、デジタル庁は昨年までFinOpsフィノップスと言う言葉を使っていなかったのだが、6月頃からFinOpsと言う言葉を使い出した。ガバクラ移行で経費が増えたと言う地方自治体からの苦情を、お洒落な新用語を使って煙に巻こうとする苦し紛れ感が否めない。

FinOpsはアプリケーション開発を内製化しているITサービス向けの行動指針であって、クラウド事業者の提供する機能の追加(や削減)と、サービスのトラヒックや業務上の重要性の変化に随時キャッチアップできることが前提になっている。開発や保守を委託するユーザーには無理があるし、ASPSaaSを利用するユーザーは関与できない。

FinOpsでは費用対効果を計測することが大事だ。説明責任が果たせる云々もあるが、費用対効果が低いサービスの廃止や機能削減がFinOpsに含まれるからだ。動画データでクラウド利用料がかさんでいるサービスがあるとしよう。動画がビジネスにさほど重要でないことが確認され、写真で十分足りるとなれば、画像アップロード機能は削減される。この例では動画の利用を避けると言う運用フォローもあり得るが、機能削減の方がよりコスト削減になるし、ユーザーの混乱を招かない。

FinOps実施はコストがかかる。委託開発の場合は、運用管理補助者がコンサルティングも行うか、専門家にコンサルティングを行ってもらった上で、発注を行う必要が出てくる。業務に加えて、クラウド事業者の提供する機能に習熟していないといけないため、開発を委託しているユーザーの知識や経験では間に合わない蓋然性が高いからだ。なお、内製化しても人件費がかかる。

デジタル庁がFinOpsとして勧める、稼働時間の削減と完全なモダン化(i.e. サーバーレスサービス化)は弊害がある。稼働時間の削減は、悪く言えば利便性の低下、良く言えばエンドユーザーに働き方改革を強いるものになるし、完全なモダン化はアプリケーションのベンダーロックイン化を招く*1。特定クラウド事業者を使うことを前提にすればコスト最小化になっているが、もっとコストを抑制できる選択肢を捨てる可能性が出てくる。

地方自治体の基幹システムの要件は総務省からのお達し(i.e. 標準化・共通化)によって決まっており、地方自治体の開発運用体制はベンダーもしくはASPに依存しているため、FinOps実施の前提条件を満たしていない。AWSがどんどん機能を追加するから、FinOpsでアプリケーションをどんどん作り変えないといけませんと言う話ではないはず。無理にFinOpsを追求しても、FinOpsの費用対効果が悪いことも十分あり得る。

デジタル庁の推奨する施策は、パブリッククラウド利用におけるコスト最小化策とでも言っておく方が良かった。コスト増に対する文句を、煙に巻くことはできないであろうが。

*1コンテナ化によるマネージドサービスの利用(e.g. AWS Fargate)はベンダーロックインの程度が低く、オンプレミス環境でもその方向が一般化してきている。

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