日本のデフレ、正確には流動性の罠からの脱出方法を示した1998年のクルッグマンのIt's Baaack!論文は有名だが、その中身は余り知られていないようだ。「復活だぁっ!日本の不況と流動性トラップの逆襲」と言うタイトルで、山形浩生氏が翻訳しているので、比較的気軽に読むことができる*1のだが、金融政策一辺倒で2009年に財政政策を重視に転向と言われているぐらい、誤解が尽きない。
論文の主張の要点は、短期的な金融緩和は意味が無く、長期的な金融緩和を約束する事が投資拡大とデフレ脱却につながると言うもの。具体的な政策手段は、インフレ目標政策の導入が一押しに見えるが、他を否定しているわけでもない*2。また、財政政策の限界を指摘しているが、「政策ミックスの一部として財政政策は考えるなということだろうか? いやまさか」と3.4節で言っている。最初からポリシー・ミックスを主張しているわけだ。
日本と米国の事情の違いがあって、1998年までの日本は拡張的な財政政策が積極的にとられていた。現在の米国は公共投資の水準が低く、少なくともクルッグマンは公共インフラが不十分だと考えている(図録▽公共事業の動向(日本と主要国))。新聞のコラム等で90年代の日本のデフレに対しては金融政策を、米国の現状に対しては財政政策を強調してしまうのは、こういう事情があるのだと思う。
クルッグマンの主張が当時と少し変わった、正確には追加されたなと思う部分もある。企業や家計のバランスシート問題だ。バーナンキFRB議長が良く議論していた問題で、不景気が長引く理由の一つの理由だと考えられている*3。これは日本だと既に大きな影響を持っていないと思うのだが、米国では深刻だと考えられているようだ*4。クルッグマンが正しいとしても、どこの国の経済状態を議論しているかは、良く考えて御意見を拝聴する必要がある。
*1少子高齢化を世代重複モデルで見ると利子率の低下がもたらされるとか、予備的な知識は必要かも知れないので、多少は経済学の知識が必要かも知れない。
*2「こうした期待を実際にどう作り出すかは、ある意味で通常の経済学の領域外の問題だ」と言っている。
*3「マクロ経済ショックが長引くある理由」を参照。
*4『米家計のバランスシート改善に「なお時間」=日銀』と報道されている。
0 コメント:
コメントを投稿