2012年7月12日木曜日

マクロ経済ショックが長引くある理由

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リチャード・クーの著作の話をしていたときに、慶應大学の江口允崇氏がマクロ経済ショックによる企業B/Sの悪化が国民所得をしばらく低下させる事を示す理論としてBernanke and Gertler(1989)を読みやがれと言っていたので、読んでみた(togetter)。少し日が経ったので記憶が怪しい部分もあるのだが、感想文を書いてみたい。景気の好不調を加速するフィナンシャル・アクセラレーターの原典的な論文だそうだ。

1. モデルの大雑把な構造

詳細は論文を見て欲しいが、モデル構造としてはDiamond OLGをベースにしており、人々はt期とt+1期の2期間を生きて効用最大化を行う*1。ただし、t期には全員が労働者として働き賃金を受け取るのだが、t+1期にはDiamond(1965)とは異なり企業家と債権者に分化する。企業家は自己資本と、債権者からの借入れで生産を行う。図を書くと以下のような感じだ。

2. 債権者と企業家の間にエージェンシー問題がある

融資から返済までの間は、図よりももっと話が込み入っている。つまり、企業ごとにランダムに生産量が変わる資本財を生産するフェーズと、マクロ経済ショックのある資本財から生産物を生産するフェーズに分かれるのだが、資本財の生産終了時に情報の非対称性によるエージェンシー問題が発生する。

3. 企業家に嘘をつかせない為に監査コストをかけて情報生産

企業家は本当は好調なのに不調ですと債権者に嘘をつき、返済を少なくしようとしだす。そこで、債権者は不調ですと言われたら、確率的にコストをかけて監査を行う。コストは企業家持ち。監査確率が一定以上になると、嘘をつくと期待収益が下がるため、本当の事を言うようになる(顕示選好原理)。ただし、監査コストは確率に比例して上昇し、その分、投資量が減ってしまう。

4. 企業家に資産が多いと情報生産コストが下がる

ここで企業家に自己資本が多くあると、借入が少ない為、不調でも踏み倒せる金額が少なくなる。好調時に不調ですと言う意欲が減退するので、監査コストを抑える事ができ、投資量の減少を低くする事ができる。t期の賃金が、t+1期の企業家の自己資本を決定する事を思い出すと、t期の景気がt+1期に伝播することになるのが分る。この仕組みが、Bernanke and Gertler(1989)のフィナンシャル・アクセラレーターになる。

5. 経済政策的にできそうな事

インフレ等で債権者から企業家へ所得移転したり、構造改革で情報の非対称性を低くすると、投資量が拡大する事になる。なお、幾ら企業家に資産があっても完全情報のときよりは良くならないので、バブルの説明にはならない。

6. 知っておくと得かも知れない

このモデルは実物ショックのモデルのためか、土地資本制約からフィナンシャル・アクセラレーターを説明しているKiyotaki and Moore(1997)の方が引用や応用を良く見かける気がするが、国際通貨危機ショックや消費税ショックなどの影響が長引く説明には使えるかも知れない。もっとも療法としてはインフレと構造改革の二つが考えられるわけで、ネット界隈の議論に決着をつける感じでは無いので悪しからず(・∀・)ザンネン

*1企業家になれるタイプの人と、そうでない人がおり、企業家タイプでも実際に企業家になるとは限らない。また、企業家と債権者では効用関数の形状も異なる。

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