2012年7月15日日曜日

消費税率引き上げの影響試算に抜けている視点

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消費税アップで、2013年度に駆け込み需要が発生する一方で、2014年度以降は消費が減少して、経済成長率が低下すると言う試算がニッセイ基礎研究所から出ている(斎藤(2012))。1997年の消費税5%化前後のマクロ・データの傾向から分析した予測値だ。面白いが、厳密に計量分析を行わなくても*1、長期予測に用いるには、信憑性は高く無いのが分る。

1. 消費税5%化で租税負担率に変化無し

“消費税”と言う単語が呪文になっているが、マクロ経済的には租税負担率を見た方が良い。消費税5%化直前の平成7年は24.0%、平成8年は23.8%、消費税5%化直後の平成9年は24.0%、平成10年は23.6%だ。1997年はデータ的には増税では無かったのだよ。実際のところ、その後の社会保険料の負担増で国民負担率の増加の方がずっと大きい(´・ω・`) ショボーン

2. 租税負担率をあげて税収が減るとは言えない

良く消費税を上げるとGDPが縮小して減収と主張する人がいるが、GDP比で減収になっているので、説明にならない。そもそも税率を上げて租税が減るなら、税率0%が政府収入を最大化する事になってしまう。どこかに税収を最大化する税率があるのかも知れないが、税収が最大の時の平成2年の租税負担率は27.7%だ。

3. 消費税率アップで消費は減らなかった

消費税収は実に安定的な税収をもたらしている。1995年度の税収は5.8兆円(課税対象193兆円)だった。1998年度は10.1兆円(課税対象202兆円)だ。実際は消費税アップで消費が減ったわけではない。消費税を上げたら、消費が減ったので不景気が続いたとはデータからは言えないわけだ。

追記(2012/07/16 09:30):消費税は物価を引き上げる事により、所得効果で消費者を貧乏にするので、消費・貯蓄ともに下げる効果があると思われる。投資水準も減るので、収入も減る。しかし、物価は2.6%上昇する一方で、課税対象の消費は4.7%(CPI調整後2.0%)上昇しており、黒字率も上昇している。(2人以上の勤労世帯の)黒字率は、1995年が27.5%、1998年は28.7%(家計調査(家計収支編))。

4. 実の所は減税している理由

税収として見た場合、実の所は減税しているわけだが、この理由は三つある。

一つは生産年齢人口の減少で、労働者が減っているからだ(日本の将来推計人口(平成24年1月推計))。日本の生産年齢人口のピークは1995年で、生産面に依存する所得税や法人税は減収圧力がかかっている。

一つはデフレが続いており、実質GDPが一定でも、所得税や法人税が減収する効果がある事だ。

一つは実際に、所得減税などで減税しているからだ。ここ20年間ぐらいの主な税制変更を表にしてみよう。

近年の主な増税/減税
年度 消費税
(税率)
所得税
(最高税率)
法人税
(最高税率)
相続税
(最高税率)
翌年度税収
(GDP比)
1988 3% 50% 40.0% 70% 13.39%
1990 37.5% 12.74%
1992 *70% 11.19%
1994 10.49%
1995 *50% 10.31%
1997 5% 9.79%
1998 (定額減税) 34.5% 9.49%
1999 37% 30.0% 10.08%
2003 50% 9.15%
2007 40% 8.78%
注) *は税率対象所得/相続額の変更、税収は一般会計税収に限っており租税負担率ではない。

追記(2013/07/30 19:42):減税内容は「平成24年度 年次経済財政報告」の「第3-2-10表 過去の主要な減税政策(国税、個人所得税・法人税)」によくまとまっていた。

5. 政府支出の増加効果を無視している

税金が増えても、それ以上に政府支出が増えたらGDPは増加する。逆に言うと、増税を回避した場合に政府支出の削減を余儀無くされるのであれば、増税した方がマシと言う事になる。消費税アップでGDPが下がったと言う分析を、そのまま中長期の経済予測に用いるのは問題が多い。

6. 増税と政府支出のトレードオフ

少子高齢化による生産年齢人口の減少に直面しているので、増税するか政府支出を削減するかのトレードオフなのは避け難い。一部の人々が経済成長で、増税も、政府支出の削減も回避できると主張しているようだが、気がおかしい。

Arai and Ueda(2012)では5.5%~6%の一人あたりGDPの実質成長が必要な計算になるし、Imrohoro?glu and Nao Sudo(2011)は実質3%成長、消費税15%でも破綻すると試算している。要するに、ここ10年間の中国以上の経済成長をしないと、増税や政府支出の削減は回避できないわけだ。

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追記(2012/07/15 14:20):id:tdam氏が租税負担率に変化が無い事を「平均値のマジック。消費税増税+法人・所得税減税=逆進性拡大→消費性向の高い世帯の可処分所得が減→全体消費減は当然」と言っているが、第3節で指摘した消費税率アップで消費は減っていない事を説明できていない。

*1フォーマルにはCashin and 宇南山(2011)の分析があり、1997年前後の経済状況の変化を、駆け込み需要の反動と、消費の長期下降トレンドで説明している。

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