2012年7月5日木曜日

マネー・ビューによる量的緩和の無効性と、インフレ目標政策の必要性

このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote
Pocket

金融政策の波及経路では、金利チャネルであるマネー・ビューと、与信量チャネルであるクレジット・ビューが通常、重視される。ゼロ金利政策まではマネー・ビュー、直接的には、それ以上の量的緩和はクレジット・ビューだと考えて良いであろう。

マネー・ビューなのかクレジット・ビューなのかは国や時期で異なる事が多い。1930年代はマネー・ビューだったようだ*1が、2000年代は延々とゼロ金利が続いているので、この視点では金融政策は限界に達している。

1. リフレ派さえもクレジット・ビュー、つまり量的緩和を否定

しかしクレジット・ビューに構造転換しているかと言うと、量的緩和が銀行融資を拡大する気配はないし、量的緩和論者の元官僚の高橋洋一氏も「過去のデータからいえば、貸し出しに回るのはかなり遅れて、景気好転時から2~3年後」と言うように、マネー・ビューが維持されている(ZAKZAK)。これが量的緩和を否定していることに、高橋氏は気付いていないようだが。

2. マネー/クレジット・ビューがあかんならインフレ目標の導入を

恐らく白川日銀総裁は「マネー・ビューもあかん、クレジット・ビューもあかん、金融政策ではどうにもならへんのや!」と考えていると思う*2が、まだ手段が残されている。インフレ目標政策だ。物価安定の目処ではなくて、インフレ目標の導入が必要だと思う。

3. インフレ目標政策は将来の資金調達の予想を立てさせる

インフレ目標と言うから混乱が生じているようだが、企業や消費者に将来の資金調達の予想を立てさせる事がその目的*3だ。

マネー・ビューにしろクレジット・ビューにしろ、中央銀行が企業や消費者の資金繰りを引き締める事は比較的容易だ。中央銀行の心替わりで、企業や消費者は窮地に追い込まれる。しかし中央銀行の最大の関心事はインフレ率なので、インフレ目標を明確にすることで、金融緩和がいつまで続くかが明確になる。長期コミットメントと同義と考えて良い*4

ここで大事なのは、企業や消費者が分かるように日銀がメッセージを出し続ける必要があると言うこと。だから「物価安定の目処」では不明瞭すぎるので、インフレ目標の導入が必要だ。

4. 経済評論家の間にあるインフレ目標政策への無理解

元官僚の高橋洋一氏*5や民間シンクタンクにいる片岡剛士氏は量的緩和を強調しすぎで、経済評論家の池田信夫氏*6もそれに釣られてインフレ目標政策を無視しがちだ。このブログではリフレ派、リフレ否定派を交互に批判しているので、中立を振舞っているように誤解されているようなのだが、インフレ目標政策への無理解さを批判しているだけで両者の間に立っているわけでもないし、その意味で日銀の金融政策を肯定しているわけでもない。

*1原田(2004)ではマネー・ビューが支持されるし、原田・佐藤(2007)によると信用乗数は安定的でベースマネーによりマネーサプライはコントロール可能であったし、原田・佐藤(2009)の図1からはデフレでも流動性の罠にも無い。

*22012年3月24日の講演で、「バブル崩壊後の積極的な金融緩和政策はもちろん必要であるが、副作用や限界についても意識する必要がある」と明確に述べている(日銀)。

*3著名なマクロ経済学者の伊藤隆敏氏の言葉を借りれば「市場にきちっとした物価目標を提示することで、インフレ期待の安定と、金融市場の安定性を確保する」。

*4、クルッグマンは1998年から14年間も、名目金利が限界までゼロに近い流動性の罠にはまっているときは量的緩和は無効で、インフレ予測を引き上げろと言っている(復活だぁっ!日本の不況と流動性トラップの逆襲(山形浩生訳))。

*52010年8月7日に放送された「未来ビジョン『埋蔵金の高橋洋一、デフレ克服策!』」と言う番組で、「日本銀行に何をやらせるか、もしくはうまくできなかったときには日本銀行に責任を取らせる仕組みがインフレターゲティング」と説明し、量的緩和をさせるガバナンス手法だと主張している。

*6高橋洋一氏らに釣られてインタゲを無視した主張が続いているように思える(関連記事:貨幣的要因デフレ説と経済評論家)。

3 コメント:

Unknown さんのコメント...

おっしゃるとおりです。ただ、インフレ期待というのはそれだけで独立してポコンと生じるものでないことはご留意ください。インフレ期待を起こすためには、目標値をアナウンスするのも重要ですが、同時にそれを実現するために金融緩和を繰り返すことが必要です。ですから、将来のインフレ期待を高めるためにも、いまから量的緩和をするのが有効な手となります。量的緩和も、インフレ期待を高めるための有力な手段でもあるのです。量的緩和はそれ自体がダメなのではなくそれが一回限りの一時的なものと思われたらダメなのです。そうでなければ有効です。高橋、片岡の両氏もそれは当然理解しているはずです。

Unknown さんのコメント...

すいません、上のコメントは、山形浩生によるものです。書き捨てのつもりはなかったんですが、Google アカウントで行くので、当然自分の名前が出るもんだと思っておりました。お手数かけます。

uncorrelated さんのコメント...

>>山形様
いつもコメントありがとうございます。

意図はお分かり頂けていると思いますが、もう少しインフレ期待の操作を意識した議論があっても良いと思って、最近はエントリーを書いております。

量的緩和にあるシグナリングも否定するものでは無いのですが、論点として中央銀行のアナウンスメント効果を強調していると御理解ください。

なお、高橋氏・片岡氏に対する批判は、両氏の無理解にと言うよりも、両氏の単純化した説明で一部にインタゲへの誤解を産んでいる点が問題だと思っています。

コメントを投稿