2012年6月19日火曜日

貨幣的要因デフレ説と経済評論家

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疑似科学ニュースで「何が貨幣的要因なデフレで、何が貨幣的要因でないデフレだと池田信夫が考えているのか、さっぱりわからない」と指摘している。氏の言説を理解するのは大変かも知れないので、補足してみたい。

経済問題の議論として考えるから理解不能なのであって、批判のための批判と考えると理解しやすい。幾つも考えられるデフレの原因で、貨幣的要因にこだわるのが鍵だ(*1)。

1. 貨幣的デフレ論は高橋洋一氏の主張

池田信夫氏は、恐らく元官僚の高橋洋一氏の言説の逆を主張している(*2)。高橋氏の主張をリストしてみよう:(a)現在はデフレ、(b)デフレは害悪、(c)マネタリーベースがインフレ率(とインフレ予測)を決定、(d)流動性の罠は存在しない、(e)インフレ・ターゲティングは通貨膨張政策の裏書き。

池田信夫氏は、今はデフレではなく、デフレは無害で、マネタリーベースがインフレ率を決定せず、流動性の罠にあり、インタゲがハイパー・インフレーションを引き起こすと主張している。時々違う事を言っているが、こういう事であろう。

2. 論理的に高橋主張の全ての逆は言えない

流動性の罠にあると主張しないと、高橋氏の主張の(c)と(d)を否定できない。ただし、流動性の罠を認めると、(a)と(b)を認める事になる。高橋洋一氏の主張を全て否定すると論理不整合に陥いるわけだ。(e)に関しては、インタゲ本来の目的と大きく外れた解釈である事に気付いていない。高橋洋一氏を批判したいのであれば、量的緩和期の実証研究を参照して(c)を否定すれば十分なわけだが(関連記事:何だか怪しい量的緩和の計量分析)。

3. 実証面から高橋主張の全てを否定はできない

論理不整合なだけではなく、池田信夫氏は(a)や(b)を否定を試みて、実データと付き合わせるとおかしい事にはなっている(関連記事:池田信夫が理解できない価格硬直性と金利非負制約)。また、期待インフレ率を中心に議論を組み立てているノーベル賞経済学者のポール・クルッグマンの主張への理解も、不正確になっているようだ(関連記事:日銀はクルッグマンの勧める政策をやったの?)。

4. デフレ?( ´_ゝ`)フーンと言えば?

デフレ論が気に入らなければ、ここ10年間の一人当たりGDP成長率はEUや米国よりもよい事を強調した方が説得力があるであろう(The Economist)。林(2002)もデフレの影響があったとしても軽微だとしている。

物価が下がったり、GDPギャップが計測されたり、自然利子率の低下が言われているのだから、デフレの存在有無で議論を展開するのは、あまり賢いとは思わない(関連記事:池田信夫が理解できない価格硬直性と金利非負制約)。高橋洋一氏を批判したいのであれば、日銀のように金融政策では手に負えないと言うべきか、デフレの影響は少ないと主張しつつ、量的緩和のリスクを強調する方が良いであろう(関連記事:日銀がリフレーション政策を嫌がる理由)。

*1物価が下がる理由としては、(1)通貨供給量が不足、(2)需給ギャップ、(3)生産コストが低下の三つが考えられる(関連記事:よくあるデフレ議論の奇妙な点)が、議論は(1)に集中している。

*2高橋洋一氏は流動性の罠は現実には存在せず、日銀のバランス・シートが拡大すれば予想インフレ率も上昇すると主張しており(Twitter)、明確にデフレ要因(1)を主張している。

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