橋下大阪市長が着々と教育バウチャー制度の導入に動いている(朝日新聞)。
教育バウチャー制度は、地方自治体が教育機関へ援助するのでは無く、児童・生徒に援助を行い教育機関を選択させることだ。教育機関の間に競争が発生すること、教育バウチャーの配布方法に所得再配分機能をもたせられることが利点になる。
こうして書くと合理的な制度に思えるが、親子間の利害不一致を考えると、上手く機能しないケースが出てくるかも知れない。例えば児童虐待対策の子どもシェルターを有料にした上で、保護者を教育バウチャーでサポートすることになるからだ。
1. 教育バウチャーで重複事業の一本化を狙う
社団法人チャンスフォーチルドレンが事業運営を受注する事が決定している。西成区で実験的に開始するわけだが、児童や生徒に毎月1万円分の教育バウチャーを配布するそうだ(*1)。塾や習い事への公費助成に違和感を感じるが、行政としては、児童にまで対象を広げて、「留守家庭児童対策事業」、「子どもの家事業」、「児童いきいき放課後事業」(*2)の一本化を計って行くようだ。
大阪のテレビ番組(*3)に出演した橋下大阪市長によれば、留守家庭児童対策事業は「鍵っ子」のための学童保育で、保護者が仕事などで昼間家庭にいない小学生を、毎月約2万円(*4)で預かる事業だ。こどもの家は、同様のサービスを、毎月無料で行っている。事業が二重になっており、また不公平があるので整理統合したいと言う事らしい。
2. 二つの事業の利用者層は同じなのか?
橋下氏の狙いは基本的に支持したいが、留守家庭児童対策事業と子どもの家事業の利用者は同一なのであろうか。後者のうち「こどもの里」と呼ばれている施設には、親の虐待で児童が逃げてくるケースなどもあるらしい。
「こどもの里」利用者に親子の対立が無ければ、親が自らの1万円と教育バウチャーを用いて、学童保育を利用する事になる。親子の対立がある場合は、親は自らの1万円を出しはしないであろうから、「こどもの里」利用者は行き場が無くなる。
教育バウチャーの配布額によっては、「こどもの里」は事業を維持できなくなる可能性がある。そして、学童保育を無料化する気は無いであろうから、その可能性は少なく無い。
3. 一般向けと貧困層向けのサービスは異なる
実際のところ、学童保育は一般家庭が利用できるサービスで、「こどもの里」は貧困家庭向けのサービスであろう。育児放棄を含めた児童虐待されている利用者がどの程度いるかはわからないが、留守家庭児童対策事業と子どもの家事業は別機能を持っていると考えるのが良さそうだ。だから、今まで行政支出に差がつけられてきたのだと思われる。
橋下氏は事業者間の公平性を強調しているが、本当の問題は、家庭環境の異なる児童や生徒を公平に扱って良いのかと言う事だ。
4. 保護者のモラルハザードの発生も問題になる
低所得者ほど教育バウチャーを多く配る事がすぐ思いつくであろう。しかし、「こどもの里」利用者の保護者は、そもそも費用負担をしていない事に注意して欲しい。児童虐待するような保護者の場合は、子供へのサービスが充実しているよりは、不正にキャッシュ・バックするような事業者の方を好む可能性がある。
その場合は、どこまで不正業者を排除できるかがポイントになるが、助成金詐欺が定期的に発生している事を考えると、行政が完全に管理する事は難しいであろう。市場競争による便益を、情報の非対称性の問題が相殺してしまうわけだ。そういう場合は、行政が管理できる組織で直接事業を展開する方が望ましい。つまり、現状の方が望ましくなる。
*1西成区で就学援助を受けている公立中学の生徒約1千人が対象になる。
*2(財)大阪市教育振興公社によると課外事業的なサービスのようだが、留守家庭児童対策事業と性質が似ているので以後は議論しない。
*32012年6月21日の「大阪NEWS ten!」。
*4施設によって費用は異なる。ある学童保育は、入所金15,000円、出資金20,000円(退所時全額返金)、保育料15,000円/月、おやつ代等8,000円/月、事務費500円/月なので、2万4000円ぐらいと考えて良いかも知れない。
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