タイトルははてな匿名ダイアリーのとあるエントリーから。
その内容は「そうですね」と思わなくも無い部分も多いが、日銀擁護としては論が弱いように感じる。話題のエントリーが信仰の源を否定しているかと言うと、そうではないからだ。一方的に批判する人々が、冷静さ欠いているように見えているのであろうけど。
このエントリーについて、幾つか思ったことを上げてみたい。
1. インフレ目標政策に議論の余地はある
マクロ金融政策と言っても、量的緩和と目標インフレの二つしか大抵は話題に上がらない。量的緩和の効果が無く、目標インフレは中央銀行コミットメントがどこまで信じてもらえるかが分からないと言う批判があるのは分かる。しかしコミットメントを信じてもらえなくても弊害は無いし、今のインフレ1%の目処は、2006年にインフレ率が1%を超えた瞬間に金利を上げだした日銀の実績からすると、インフレ抑制効果が高すぎるように感じる。
2. 新しい視点を提供しつつ、日銀批判の材料も提供
ゼロ金利下の財政政策については、政府の仕事で日銀の議論とは少しそれる。また、引用されているWoodford(2010)の要旨では、価格硬直性があると乗数効果が大きくなり財政政策が有効になる一方で、中央銀行が財政政策に応じて金利引き上げを行うと乗数効果が相当下がると述べられている。つまり、日銀がインフレを毛嫌いしていると市場が思っているだけで、景気が悪くなるわけだ。新しい視点を提供しつつ、日銀批判の材料も提供している。
3. 日銀批判者は理論だけではなく、実証に弱い傾向がある
日銀批判者が不勉強なケースがあるのは確かだと思う。例えば、一人あたり実質GDP成長率や、生産年齢人口の変化率を国際比較した数値を認識している人は、意外に少ない*1。名目金利差が為替レートをそれらしく説明する事さえ、認識していない人がいるぐらいだ。もちろん量的緩和の効果の計量分析の分析結果は全て無視されている*2。小難しい理論モデルを理解できる人は限られるため、データを提示していく方が良いのでは無いであろうか。
4. 信仰の源への批判が必要
なぜこうなってしまうかと言えば、信仰するものがあるから。「バーナンキの背理法」により、通貨供給を続ければ、いつかインフレになると信じている人々はかなりいる。インフレ率が通貨供給の滑らかな関数であると思うようだ。この滑らかな関数が、量的緩和で景気を上手くコントロールできると思わせている。インフレ予測と言う危ういモノが作用しているはずなので、この関数が滑らかかは日銀は懐疑的*3で、量的緩和の弊害に注意しているように思える*4が、それらを上手く説明できていない事は確かなようだ。
*1問題のエントリーのはてなブックマークに「人口減はロシア・ウクライナでも同様」とあるが、恐らく書いた人は2000~2010年の年平均労働人口増加率が、日本は-0.569%で、ロシアが-0.060%である事は認識していない。
*2もっとも理系の研究者でそれなりのポジションにある人でも、計量分析の経験が無い人は分析の適切性を評価する事ができないので、実証研究の紹介は諸刃の刃ではある。
*3量的緩和の主張者は f:マネタリーベース → 物価 と思っていて、日銀は f:マネタリーベース,インフレ予測 → 物価 と思っているようだ。インフレ予測の形成メカニズムに不明点があるので、日銀の立場だと突然のハイパーインフレーションの可能性が否定できない。
*4関連記事:日銀がリフレーション政策を嫌がる理由
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