2011年9月9日金曜日

よくあるデフレ議論の奇妙な点

このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote
Pocket

デフレーションの言葉の意味を理解しているのかいないのか、経済評論家やブロガーがデフレを論じ出したのだが奇妙な話になっている。なぜ奇妙なのかと言うと、前提とする用語定義や経済モデルを念頭におかないで文章を書いているので細部がおかしくなっている為だ。

文書内で議論が完結しているのであれば良いのであるが、他の論者の意見を批判している場合に用語定義が一致しないと問題認識がおかしくなる。議論の最中に想定されている経済モデルが複数あるとすると、話に整合性がとれなくなる。少なくとも前者は意識して主張を行うべきだ。

デフレーションの定義と原因を確認した上で、経済評論家とブロガーのデフレ議論の奇妙な点をまとめてみた。

1. デフレーションの定義

物価水準が継続的に下がっているときが、デフレと見なされている。消費者物価指数(CPI)がマイナスであればデフレだと思っていて良い。CPIは消費者が購入する消費バスケットを仮定して、それを購入するときに幾らかかるかを調査した上で計算している。卸売物価指数や生産者物価指数でも構わないのだが、消費者の立場で見る方が直感的であろう。

ズボンと散髪代が消費バスケットにあれば、ズボンと散髪代の値下がりはデフレをもたらす。また、ユニクロのズボンが消費バスケットにないとしても、価格理由で消費者がユニクロのズボンを選好すれば、消費バスケット内のズボンも価格競争で値下がりする可能性が高い。そして技術革新が低価格をもたらしたとしても、デフレは観測結果なので、背後にあるメカニズムに関係なくデフレだ。

2. デフレの原因は三種類

デフレは統計上観察される現象に過ぎないので、その要因は多様だ。大雑把に三種類の原因が考えられており、そのうち需要サイドか供給サイドが問題だと思われている。

2.1. 通貨供給量
金本位制のときは、経済成長に関係なく通貨供給量が一定であったため、常にデフレであった。良貨は経済を回さない。貨幣的なデフレと呼ばれているようだ。日銀がハイパワードマネーを増やしてもデフレなので、現在のデフレに通貨供給量は関係ない。ゆえに通貨供給量不足をデフレの理由だと考えている人はほぼいない。
2.2. 需要サイド
不況で供給よりも需要が少ないので価格が下がる現象、つまり需給ギャップ(GDPギャップ、潜在成長率と実質成長率の乖離)によるデフレ。価格硬直性や低い期待インフレ率で説明される事が多く、マクロ経済学の実証研究でもこのトピックの論文は多い。ノーベル賞経済学者のクルッグマンら主流派マクロ経済学者の見解はこれである。この説の裏づけは実証研究でも行われており、小幡績氏が渡辺努氏の研究を紹介していた。
2.3. 供給サイド
技術革新などで生産コストが低下し、物価が下がる事はありえる。現象としてはデフレなのであるが、需要が増えて消費全体が増して行く限りは経済的な問題は無い。著名経済学者の野口悠紀雄氏は、新興国からの安い製品の流入が世界中に価格抑制効果を引き起こしており、日本は消費バスケットに占めるサービスの比率が低いためにデフレになっていると主張している(東洋経済オンライン)。

通貨供給量が問題だと主張している人は、リフレーション政策推進者を含めて存在しない。供給サイドが問題の場合は、マクロ経済政策によるデフレ解消は期待できない。需要サイドに問題がある場合は、ケインズ的なマクロ経済政策が有効となる。リフレ政策の支持者は、予想インフレ率を引き上げるためにマネーサプライを増加させろと主張している(関連記事:リフレ政策は本当に下火になったのか?)。

3. 新興国の工業化はデフレ主因になっているのか?

野口氏の主張と同様に、内閣府は「新興国との競争が物価や賃金の上昇率を抑制している可能性」を言及している。しかし、これらの主張は割り引いて考えた方が良い。

まずリーマンショック後のデフレはサービス価格の下落ももたらしており、非貿易財にデフレは新興国の工業化では説明できない。次に日本は貿易依存率が低い国で、2009年は輸出依存度が11.4%、輸入依存度は10.8%となっており、輸入価格の変化が消費者物価に直結しづらい。サムソンのある韓国は43.4%と38.8%だ(統計局)だ。主要な輸入品目である小麦などの穀物やエネルギー価格は世界市場で上昇しているのだが、相変わらず日本はデフレだ。

つまり供給サイドによる物価下落は否定できない事実だが、需要サイドに問題が無いとも言えない。

4. 経済評論家とブロガーのデフレ議論の奇妙な点

供給サイド、需要サイドのどちらに問題があるのかは議論がある。論理的にはどちらもありえる話なので、実証的に研究されて決着がつくのであろう。さて、学術的な議論がされているところに、経済評論家とブロガーが以下のような奇妙な主張でクビを突っ込んでいる。

4.1. 生産性が高まった結果の価格下落はデフレではない?
デフレの定義次第だが、一般的にCPIの下落をデフレと見なしている以上、価格下落の原因を言及すると奇妙な事になる。生産性が高まったから、創意工夫があるから低料金が実現できたのでデフレではないと主張している人がいるが、デフレになるか否かは消費バスケットに入っている財の価格に影響するか否かだ。
4.2. 相対価格の下落であって、一般価格水準の下落ではない?
平成13年度経済財政白書で価格下落を、一部製品の下落に伴う「相対価格」の変化と「一般物価水準」の下落に分けて書いている。分けて書いてあるなら独立したモノに見えるが、そうではない。ある財の価格が下がり、他の財の価格が一定のとき、ある財の相対価格は下がる。このとき、一般価格水準はやはり下がる。ある財・サービスの価格下落は、他の財の価格上昇が無ければデフレをもたらすので、やはりデフレ圧力なのは間違いない。
4.3. 貨幣的なデフレではない?
通貨供給量が不足してデフレになっていると言う主張をしている人はいないので、誰を批判しているのか謎な主張となっている。予想インフレ率を引き上げるためにマネーサプライを増加させろと主張しているリフレ派は需給ギャップの解消を目的としているのだが、彼らの主張を誤解しているようだ。
4.4. 低い潜在成長率はデフレの原因になる?
潜在成長率が低くなれば物価水準が低くなると考えられている。だが既に潜在成長率が低い状態では、物価水準は調整されているのでデフレ圧力にならない。デフレの物価水準はマイナスである事を思い出すと、デフレが続くためには潜在成長率が低下し続ける事が必要になる。
4.5. 金融市場が流動性の罠に入って金融政策がきかないのに、需給ギャップが無い?
需給ギャップが無いなら金融政策は必要ないので、「流動性の罠」が問題になる事が無い。流動性の罠が問題になるのは、自然利子率がマイナスになっており、需給ギャップが無くなるまで名目金利を下げる事ができない時である。

誰が奇妙な事を言っているのかは言及しないが、前提とする経済モデルを念頭におかないで文章を書いているので細部がおかしくなっているのであろう。ブロガーは政策議論が好きなので、リフレ政策を否定するためにデフレ議論をしているのだと思うが、デフレ議論でリフレ政策主張者を否定するには、価格の調整速度が十分速く、低い期待インフレ率は適性水準で、需給ギャップが無いことを説明しないといけない。素人が手を出すのは、かなり難しいテーマであると思われる。

0 コメント:

コメントを投稿