疑似科学ニュースで、なぜリーマン・ショック後の他国の中央銀行はマネタリーベースの大幅拡大をしているのに、日銀はしていないのかと言う疑問があったので、回答してみる。
買オペによるマネタリーベースの拡大は、基本的には、金利を引き下げる意味と、金融機関に決済性資金を潤沢に供給する意味がある。
リーマン・ショック後、FRB、BOJ、ECBは金利を急激に低下させているが、日本は低下の余地がほとんど無かった(政策金利比較)。だから、日銀のマネタリーベースの拡大幅が小さいのは、当然になる。
量的緩和はゼロ金利達成後のマネタリーベースの拡大をさすので、ECBやFRBの場合は2009年以降がそれになる。各国中銀のマネタリーベースのグラフを見ると分かるが、危機が続いているECBに対して、FRBはあまり増やしていない(Reuters)。FRBのQE1は2008年11月からだが、実はそこからマネタリーベースはそんなに増えてない。
2008年、2009年のマネタリーベースと金利の関係を関係を同時にプロットしてみると、金利が0.5%付近からマネタリーベースの増加が抑制的なのが分かる。
クルッグマンのモデルだと、金利ゼロだと現在のマネタリーベースを拡大しても意味が無い事は分かっていて、将来のマネタリーベースの水準に対する姿勢を示すものでしかない。つまり、信じてもらえないと意味が無い。実際に2001年~2006年に日銀が量的緩和を試みたときは、1998年に書かれたモデルが予言するように効果がなかった(関連記事:何だか怪しい量的緩和の計量分析)。
だから将来のマネタリーベースの水準を信じ込ませるような政策が必要になると考えられていて、それはインフレ目標政策だったり、長期国債の買い入れだったりする。ただし、この場合も効果がどの程度あるのかは分からない。それでもクルッグマンのモデルは、今まで一貫性のある説明を提供し続けていて、クルッグマンのコラムも概ねそれに基づいたものとなっている。
4 コメント:
>ECBやFRBの場合は2009年以降がそれになる。
>量的緩和はゼロ金利達成後のマネタリーベースの拡大をさす
ECBの緩和ペースは緩慢で、金利が1%を切ったのは今年に入ってから(現在0.75%)ですし、2011年には一旦引き締めに動いています。
その定義でいけば、ECBは量的緩和を行っていない、になるかと。
リーマンショック時には多くの中央銀行が当座預金への付利と基準金利での貸し出しを行っています。
これにより短期金利と当座預金(マネタリーベース)は切り離されました。
かつての日銀のようにゼロ金利に達しても尚、緩和しようとした状態を想定されているようですが、それは現在には当てはまりません。
FRBに関してもこちらの記事にバランスシートの内訳が載っています。
http://agora-web.jp/archives/1486420.html
急上昇している部分は「金融機関に決済性資金を潤沢に供給」する目的で行われており、その後は機能不全に陥った住宅ローン市場に資金を投入しています。
FRBの(いわゆる僕達がイメージする)金融緩和は、ゼロ金利と時間軸政策とツイストオペとMBS証券の買い入れぐらいでしょう。いずれも、金利の低下を促す物です。
あとは、みんなプルーデンス政策の枠組みの中で行われている物です。
以前にも書きましたが、マネタリー政策とプルーデンス政策の区別がついていない為に、議論が混乱しているように見えます。
>将来のマネタリーベースの水準に対する姿勢を示すものでしかない。
勘違いかと。
>> POM_DE_POM さん
色々ご指摘ありがとうございます。
一点、確認させてください。
>> 将来のマネタリーベースの水準に対する姿勢を示すものでしかない。
> 勘違いかと。
クルッグマンのモデルを前提したお話でしょうか?
>> POM_DE_POM さん
> その定義でいけば、ECBは量的緩和を行っていない、になるかと。
ここは御指摘に従い、ECBの所に取り消し線を引いておきました。
> 将来のマネタリーベースの水準に対する姿勢を示すものでしかない。
> 勘違いかと。
> クルッグマンのモデルを前提したお話でしょうか?
記事を確認した所、僕の勘違いでした(。_ _)。
FRBがマネタリーベースを拡大させているのが、”将来のマネタリーベースの水準に対する姿勢を示す”為に行っていると読んでしまいました。
ちゃんと「クルッグマンのモデルだと、(以下略)」って書いてるのに。
クルッグマン関係ないやん!
って脊髄反射してしまいました。申し訳ないです。
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