一般向けに書こうとして、何かおかしくなっている気がするのだが、駒沢大学の矢野浩一氏が『「二つの悪」の悪い方と戦う ―― リフレーション政策と政策ゲームの変更』で、リフレーション政策の正当性を主張している。細かい部分で問題が多いように感じる。
「■デフレが経済を蝕む」の節でマイルドなインフレはデフレよりも望ましいと主張している。しかし、ここの書き方だと疑問が生じる。まず、デフレでも賃金が下落するペースで物価も下落したら、働く人が損になるわけではない。インフレでも物価が上昇するペースで預金金利がついていたら、現金をただ保有する人も損にならない。
恐らく矢野氏の主張は、デフレだとゼロ金利になりやすくて、過少投資になりやすいと言う事だ。実質金利が1%で、物価予想が-1%だとすると、名目金利が0%でないと十分な投資が行われない。しかし審査コストや返済不能リスクを考えると、金利0%では貸すわけにはいかない。すると金利が均衡より高くなり、高収益を期待できる投資しか行われず、低収益な投資は見送られる。そして景気が悪くなる。
デフレになると物価の調整速度が十分に速くならない事も指摘するべきであろう。厚生年金基金の上乗せ給付を想定利回り5.5%は、低金利なのに9割の基金で維持されたままだった。生命保険会社は予定利率が固定されていたので、数社が運用益が間に合わず破綻した。身近なところでは、デフレで住宅価格は低下しているのに、家賃は低下していない*1。価格調整が上手く行かないと言う事は、資源配分が偏ると言う事になる。
なおリフレーション政策自体にも問題があり、例えば中央銀行が見合い資産不足で金融政策のグリップを失うケース*2が考えられる。また日銀法の改正が、中央銀行の独立性を過度に侵食するものであれば、必要以上に高いインフレ目標が掲げられる恐れがある*3。また、インフレ目標政策を置くと経常収支やバブルの発生などを、金融政策でケアすることが難しくなる可能性もある。
1 コメント:
デフレで働く人が損というのは現金持ってる人との比較の話でしょう。物価下落したら解雇されたりで経済的損失は大きい。
預金金利はインフレ率を超える事はないと思います。
バブルを経験した日本で必要以上に高いインフレ目標はありえないとおもいますけど
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