2012年7月17日火曜日

ある地方公務員のあるマクロ経済分析(途中)への誤解

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とある地方公務員の方が「財政政策という実務」と言うエントリーで、駒沢大学の飯田泰之氏のブログの内容を批判しているが、幾つか誤解があるようだ。

飯田氏は、近年の財政政策の効果低下の理由を探っており、社会保障を否定しているわけではない。財政政策と言うと土木工事しか無いのかよ!と思われるかも知れないが、社会保障は移転支出になりケインズ経済学でも政府投資にならない*1から、分析に向かないのだ。

1. 移転所得は乗数効果を呼ばない

教科書的なケインズ経済学だと世界はY = c(Y - t + r) + I + G,Y:国民所得, t:税金, r:移転所得, I:民間投資, G:政府投資みたいに理解されていて、1兆円の社会保障はtとrを1兆円増やして、Gは変化無しと考える。すると乗数効果が働く余地が無く、国民所得も増えない。変形するとY = (I + G)/(1 - c) - c(t - r)/(1 - c)で、1 - cが乗数になる*2

2. 土木事業は基本的な政府投資

財政政策と言うとGだけ増やす、もしくはtとGを同時に増やす事だと一般に理解されている。rだけ増加させても国民所得は増えるが、政府投資だけより効果が低い。政府投資で最も大きな項目は、道路や橋などの公共インフラへの投資になるため、飯田氏が土木事業の効果を見ているのは自然だと言えるであろう。

3. 政府投資が効かなくなったのは?

財政政策が効かなくなったのは、リカード的な家計が増えたとか、社会資本の生産性が低下したとか、Gが増えると金利が上昇して貿易収支が悪化するからとか言われている*3が、飯田氏によると決め手になる議論は無い。そこで飯田氏はデータの傾向を分析していると言うわけ(たぶん)。

4. 供給制約の話が新しい点

地方公務員の方は供給制約の話が当然としているが、実はこれは当然ではない。飯田氏は急激な増加のある時期を分析しているわけではないからだ(図録▽公共事業の動向(日本と主要国))。70年代、80年代にあった効果が90年代以降見られないわけで、90年代だけ供給制約があるとするならば興味深い事だ。

別のエントリーで指摘されている原田泰氏が瞬間的に生じた予算の未消化で、東北の復興予算が過剰と議論するのに無理があるのは分るが、飯田氏の議論は全く別の話になっている事には注意すべきだ。

5. 地方公務員のちょっとした誤解

何はともあれ財政政策の是非は分析しているけれども、飯田氏は社会保障の是非は分析していない*4。また、供給制約を忘れているわけではなくて、90年代以降にだけ見られる点を問題にしている(と思われる)。地方公務員の方の主張が分からないでもないけど、論点としては飯田氏とは大きく逸れている。

*1新古典派的な世界を持ち出すと、リカード的家計は、Gが増加すると、将来の増税に備えて貯金が多くなってcが低下して乗数効果も効かなくなる。

*2つまり公共投資をしたら土木作業員にお金が流れて、土木作業員がさらにお金を遣って・・・と言うサイクルを意味する。

*3マンデル・フレミング効果。

*4この暫定的な話から言うと、財政政策は効かないから、貧困者ケアは社会保障でと言う議論は可能かも知れないけど、そこまで解釈するほど分析が進んでいるわけでもない。

3 コメント:

dousureba keizai さんのコメント...

リフレ政策的には社会保障費のようなr=移転所得を、T=税金で賄わず、新規国債日銀引受等の財政マネタイズで行えばY=国民所得は増えると思いますが、如何でしょうか?

a さんのコメント...

社会保障支出を政府支出でなく移転所得に区分しなくていけない、という決まりでもあるのでしょうか?
 “方便”というか便宜上、移転所得に区分して議論を進める、というのなら理解できます。しかし例えば、病院を建てる、老人ホームを作るというのは、それによって雇用が産まれていますし、そもそもそれ自身一部は土木事業です。

uncorrelated さんのコメント...

>>a さん
政府が事業をして介護サービス等を提供する場合は、公共投資になります。阪大の小野氏の主張はそれですね。

ただし、現状の社会保障は移転所得になるものがほとんどです。

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