2012年6月25日月曜日

社会学者・古市憲寿氏の経済成長論をフォローする

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起業家の増加が経済成長をもたらすと言う社会学者・古市憲寿氏の主張(*1)に対して、『自分でアップルみたいな会社作って経済を回したらいい』という言い方が悪いのだと思うが、否定的なコメントが多くされている(togetter)。古市氏の主張のフォローを試みてみよう。

まずは「経済成長」に関して、一般的な話を整理してみる。

  1. 経済成長は、一般には生産量の増加として議論される。生産量が多ければ、消費が増えて、幸せになると言う論理で肯定される。
  2. 経済成長と言うとき、一般には配分や余暇は考えていない。議論の契機となった雑誌を発行している、社会的弱者のサポートを目的としたNPO法人POSSEの活動には直接関係がない(*2)。
  3. 歴史的には経済成長にともない、貧乏人も消費が増えているし、労働者の余暇や労働環境も改善している。分配するパイが増えれば、貧乏人も得。
  4. 経済成長を起こすには、技術革新か資本・労働投入量の増加が必要になる。技術革新と資本蓄積が重要になる。
  5. 企業家が増えると、投資が増え、技術革新と資本蓄積が達成されるかも知れない。イノベーティブな企業を作る事ができれば、そうなるであろう。しかし、凡庸な企業であれば既存起業と同じなので意味が無い。
  6. イノベーティブな企業を設立できるなら、設立したい人は山ほどいる。できないから、設立しない。つまり、企業家の発生は内生的に決まっている部分がある。マクロ経済環境もその決定要因の一つ。

古市氏が経済成長を無視していると言う批判は、(2)から恐らく氏の関心事項ではないから、批判は妥当では無い。起業に関しては、(6)から古市主張は素朴過ぎるが、(4)の技術革新の重要性を強調していると捉えることもできる。ともかく、もっと(2)を説明すべきだと思う。

なお古市氏の言う「経済学史的にいうと~」は、『成長論』と呼ばれる経済学の分野を完全に無視している(*3)ので事実認識に誤りがあるように思える。「新古典派経済成長理論」で検索すると色々なページがヒットするので、色々と学習することをお勧めしたい。大半の教科書モデルで「通貨」が省略されている事に驚くかも知れないけど。

追記(2012/06/25 05:30):古市憲寿氏から反論が来たのだが、会話用のtwitterアカウントが古市氏にブロックされているので、説明を追記したい。

まずは『僕のどのような発言を「起業家の増加が経済成長をもたらす」と解釈されましたか?』と言う部分だが、『「経済成長が必要だ!」っていう人に対していつも思うのだけど、だったら自分でアップルみたいな会社作って経済を回したらいいんじゃないの』と言う発言で解釈した。会社を作る(=起業)事が、経済成長につながると読める。その後の発言でも、『起業家やイノベーションは20~30年代にシュンペーターが価値を認めた』や『イノベーションまでいかなくても自営業的なものができやすくする環境の整備は必要』で、この発言の否定はしておらず、暗に肯定しているように読める。

次に『経済成長理論に関しては、シュンペーターなんかよりもケインズが優勢で、70年代から80年代にかけてのベンチャーブームで経営学がシュンペーターを再評価、それに合わせて経済学でもイノベーションが注目されるようになった、という解釈なのですがいかがですか』の部分だが、はっきり言うと新古典派経済成長理論になるためケインズ理論とは関係ない。また、代表的な成長論の古典論文は、Ramsey(1928)、Solow(1956)、Cass(1965)、Koopmans(1965)、Diamond(1965)なので、時期があわない。これらの論文ではイノベーション、つまり全要素生産性(TFP)の向上は外生的に取り扱われるが、重要性は認識されている。

追記(2012/06/25 13:15):さらに古市憲寿氏から反論が来たので紹介したい。ブロックは解除して頂けた模様。

*1経済思想史家の田中秀臣氏の『成長路線のセンスの悪い無視はほんとうにただの左翼中二病』と言う感想に対して、社会学者の古市憲寿氏が『「20以上も若い人」に向かっての趣味の悪い上から目線』と言い返しており、実態は単なる口喧嘩。

*2経済成長で労働市場の状況が改善すれば、待遇の良い職場も増えるであろうが、不法な社会慣行の是正に取り組んでいる団体からすれば、経済成長云々は遠い議論であろう。そもそもNPO団体にはコントロール不能だ。

*3経済学史的にいうと・・・イノベーションは20~30年代にシュンペーターが価値を認めたのですが、その後・・・経済学ではずっと無視され』と主張している。全要素生産性(TFP)も知らないのであろう。

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