2012年6月10日日曜日

ブラック企業の存在をゲーム理論で考察する

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待遇の悪いブラック企業とは言え、そこで労働者が働いている限りは、社会的意義があると主張したところ、労働問題の専門家の濱口氏から「社会ゲーム上の非対称性が問題」だとツッコミが入った。なるほど。

完全情報で完備契約、そして摩擦無しを想定したが、例えば不完全情報を仮定するだけで、不幸にもブラック企業で労働する人々が現れる。教科書的なゲーム理論で考察してみよう。

1. ブラック企業が存在する採用・就職ゲーム

まず、ゲーム木を描いてみる(ゲーム理論の詳しい説明は岡田(2011)などを参照)。

プレイヤーは企業と労働者だ。まず、企業が確率αで優良企業、1-αでブラック企業になる。次に、労働者が確率βで就職をし、1-βで就職をしないと決める。企業はα、労働者はβの値を決め、さらにαとβは相互に周知されている。しかし、実際に優良企業なのかブラック企業なのかの情報は、労働者は知る事ができない。濱口氏の言葉を借りて「滅私奉公型」か「使い捨て型」か判別できないと解釈しても良いであろう。

下段に(企業の利得, 労働者の利得)を記したが、企業は優良企業として働かせる(利得1)より、ブラック企業として働かせる方が利得が多い(利得2)。労働者は優良企業で働く利益はあるが(利得2)、ブラック企業では不利益になり生活保護の方がマシだ(利得-1)。この利得だと、混合戦略ナッシュ均衡でα=1/3、β=1が選択される。αが1/3以下だとβ=0が労働者にとって最適だし、αが1/3より大きくなるとβ=1だが企業の利得がどんどん減ってくる。

αが0から1の開区間にあると言うことは、同質の企業で同質の労働者なのに、企業は優良企業にでも、ブラック企業にもなりえるわけだ。この世界では能力に関わらず、労働者はブラック企業で労働をしてしまう可能性がある。

2. 雇用環境の変化とブラック企業

雇用環境が変化すれば、社会に蓄積された情報が使えなくなるので、求職時の情報の非対称性が高まる。濱口氏が指摘するように、メンバーシップ型からジョブ型へ労働市場が遷移しているとすれば、こういう不完全情報ゲームが成立しやすくなるであろう。

3. ブラック企業の駆逐方法

問題が整理されると、色々と対策が見えてくるものだ。情報の非対称性やフリクションを無くせば、労働者は優良企業でしか働かなくなるのでブラック企業はなくなる。業界ごとに労働組合を組織して、ブラック企業だと判明したときにストライキなどで企業の利得を削る事にしたら、優良企業として振舞うようになるので、ブラック企業は無くなる。

4. 構造的に考える必要性

単純化しすぎたモデル・モドキではあるが、論点を整理しないよりはマシであろう。少なくとも労働者にとって利益の無いブラック企業が存在できる事は明確になった。

前のエントリーで取り上げた社会学者のヒヨコたちは、ブラック企業の不法行為の糾弾や、脆弱の立場の労働者の生活の窮状に関心の中心があったように感じる。しかし、それら結果を見ているだけでは問題解決に近づけない。情報を組み立てて社会の仕掛けを考えていかないと、単なる不満の連呼と大差の無い事になってしまう。

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