2012年6月12日火曜日

完全ベイジアン均衡でブラック企業の駆逐を考える

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ブラック企業と言う概念は多様なわけだが、少なく無い人が「就業するだけ人生の浪費となる企業」がブラック企業であり、何かの間違いで労働者はそこに就業すると考えているようだ。

何かの間違いとは、短期的に苦しくても長期的に報われると言った幻想を抱いたり、周囲や家族の無理解で退職が困難であったりする事が原因でと言う事のようだ。この定義は、法令遵守ができていない企業でもブラック企業とは限らないし、大手戦略コンサルタント会社のように後のキャリアにつながればそうではなくなると言う意味で秀逸だ。

1. モデルを設定する

さて、労働者の為にならないブラック企業は、市場から消えてもらわないといけないが、どうやって消えてもらおうかを考えてみよう。以前のエントリーでは混合戦略ナッシュ均衡で例を作ったが、ブラック企業は自発的に生まれるわけではなく、経営者の無能さから自然発生すると言う事を仮定して、完全ベイジアン均衡を用いてみよう。

プレイヤーは企業と労働者で、企業は確率πで優良企業、1-πでブラック企業として誕生する。優良企業もブラック企業も、営業を行う場合は、従業員の募集をかける。労働者は優良企業もブラック企業かを判別ができない。入社しないと分からない事が多いからだ。しかし、確率βで応募・就職をすると決めている。

下段に(企業の利得, 労働者の利得)を記したが、優良/ブラックに関わらず、企業は営業した場合の利得は1、廃業した場合の利得は0、募集失敗した場合の利得は-1とする。労働者は、優良企業に就職すれば1、ブラック企業に就職すれば-1、それ以外は0の利得を得る。

2. 分離均衡を求める

この設定の状態では、π>1/2でβ=1、π<1/2でβ=0の解になり、優良/ブラックともに労働市場に残るか、消える事になる。優良/ブラックの利得を得る構造が同一であること、πが低いと労働者の利得が低くなるのがその理由だ。そこでブラック企業だと判別したら、何らかのペナルティーpを与えるようにするか、優良企業に何らかのボーナスbを与える事にしよう。これで、優良/ブラックの収益い違いをもたらす事ができる。

優良/ブラック企業のそれぞれの利得、優良企業の利得が0以上、ブラック企業の利得が0以下、労働者の利得が0以上になる状況を整理しよう。ペナルティー政策の場合はp > (3π - 2)/(2π - 1)、ボーナス政策の場合はb > 0が分離均衡、つまりブラック企業を追放する条件となる(*1)。

ボーナス政策が安いコストで実現できそうな気がするが、εを僅かな値として、βは1/2-εになる。ペナルティー政策の場合は1/{2-(3π-2)/(2π-1)}-εだ。π=3/4の場合、p<1/2、β>2/3となる。つまり、ペナルティー政策の方が雇用水準が大きくなる。なお、両方同時に実行すると、ペナルティー政策の効果のみが有効になる。また、ブラック企業をなくしつつ、労働供給を最大にするにはp≧1が求められる。

3. 政策的インプリケーション

ペナルティーをつけるとブラック企業により高い就業率が採算に必要になり、ボーナスをつけると優良企業がより低い就業率で採算がとれるようになるので当然な結果なわけだが、飴で釣るより鞭で叩けと言うのが面白い。

ゲームの構造に大きく依存しているため、実証研究のサポート無い状態で本気で捉えられると困るし、ゲーム理論家が定式化がなっとらんとか、均衡概念の理解が間違っていると怒り出しそうなので辞めにするが、ボーナス政策とペナルティー政策のどちらが有効かを実験経済学などで分析してみるのは良いのかも知れないと思った。日本政府が、そういう気の効いたことをするとは思えないけど。

*1優良企業の利得が(1+b)β-(1-β)、ブラック企業の利得が(1-p)β-(1-β)になる事に注意すると、分離条件均衡の条件は1/(2+b) < β < 1/2か、1/2 < β < 1/(2-p)になる。労働者にとってβは高い方が望ましいので、εを僅かな値と置くと、ボーナス戦略(b>0,p=0)ではβ=1/2-ε、ペナルティー戦略(b=0,p>0)ではβ=(2-p)-εが解になる。bとpはβを所与として優良/ブラック企業の参加制約(利得0が境界)より求まる。

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