ノーベル賞経済学者のスティグリッツが、アベノミクスを支持していると報道されている(産経ニュース)。アベノミクスの柱の一つはインフレ目標政策の導入だったわけだが、スティグリッツがインフレ目標政策は失敗だったと言っていた事を思い出した(Project Syndicate)。
考え方を変えたのかと思ったが、"In the Wake of the Crisis"の中でもインフレ目標政策に懐疑的な見方を披露している。スティグリッツによると、インフレ目標を死守することに意味は無く、安定した持続可能な成長を達成し、雇用や賃金を改善する事が重要だ。しかし、リーマンショック前はインフレに焦点を合わせることで視野が狭くなり、それがインフレよりも問題な金融不安を呼び起こした。また、同じインフレでもコスト・プッシュなものなのか、ディマンド・プルなものかで、実行すべき政策は異なる。
スティグリッツが批判しているのはハードなインフレ目標政策になるが、フレキシブルなインフレ目標政策を採用したとしても、適切な匙加減をどうするかが問題になる。ともかく、先進国も途上国もインフレ目標など捨ててしまえと言っていたスティグリッツがアベノミクスを支持する理由は、インフレ率0%目標を遂行するよりは、雇用などを考えて高めのインフレ目標を持つ方が良いと評価したと言う事であろう。
インフレ目標は金融政策の手段であって目標では無い。そして金融システムの安定は重要な目標として今も残っている。設定されたインフレ目標値と金融システムの安定性が二者択一になったときに、どちらを選択すべきかは今後の金融政策の大きな課題になるのであろう。マクロ・プルーデンス政策が金融システムの安定性を確保してくれれば良いのだが、株や不動産などの資産市場が加熱する事は、今後も十分にあり得ることに思える。
2 コメント:
こちらでは、インフレ目標政策導入を日本に提言しています。
http://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/Readings/stiglitz.html
スティグリッツがインフレ目標政策に懐疑的なのは、目標インフレでは、雇用改善などにとって足りないことがあるからのように思います。
>>松尾匡 さん
ご指摘ありがとうございます。スティグリッツはインフレ目標を一方で批判し、一方で提言しているのが興味深いですね。
以下のように言っているので、インフレ目標自体は手段としてはありえるものの、インフレ率そのものは達成すべき政策目標では無いと指摘しているのだと思っています。
"The crisis has brought home something that should have been recognised even before the crisis: managing inflation is not an end in itself but a means to an end. The end is a more stable economy -- not just price stability but real stability -- and an economy that is growing faster in a sustainable way. We ought to be concerned about how the economy affects ordinary individuals. And here, employment and wages are critical."
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