2012年12月14日金曜日

失業率目標は景気指標である事がイノベーティブなのではない

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コメント欄で経済評論家の池田信夫氏のエントリーをコメントで紹介されたので、幾つかコメントをしてみたい。

インフレ目標政策が、そもそも景気指標で金融政策の目処をつけるものだと、池田氏は理解していないようだ。「今までの時間軸政策が期間を宣言していたのに対して、景気指標で示した点がイノベーションだ」と言っている。

なお、デジタル大辞泉を見ると、時間軸政策は『ある方針を時間を限定して、または、ある条件が整うまでと限定して実施する政策』とあるので、用語的にも池田氏の主張は良く分からない。

「アメリカの自然失業率が6%前後といわれている」は、The Economistで紹介されていたIMFのペーパーなのでは無いかと思うが、リーマンショック前が5%、後が6~6.75%なので、少し数字に覚え違いがあるようだ。

「バーナンキのQEには効果がなかったというのが、経済学者の一般的な評価」の部分は、参考文献なり示して欲しいところだ。実証分析によると日本の量的緩和に効果があったようには思えないが、米国でもそうであるとは限らない。もちろん池田信夫氏が変節したと強調する、クルッグマンの1998年のIt's b+k!論文では量的緩和は否定的に書かれていたが、FRBは単純な量的緩和ではなく色々な手段を模索している。

『FRBは「中央銀行がインフレにする手段はないが、何かの外的要因(景気回復やドル安など)でインフレが起こった場合も、6.5%まではゼロ金利を変更しない」といっている』は、インフレ率の長期見通しが2.5%になったら金融緩和を辞めると明確に言っているので、誤読している。

「日本の失業率(4.2%)は自然失業率の範囲であり」は、OECD(2001)*1の推定値を参照したもののようだが、内閣府の推定では3%ぐらいに思える*2

「Woodfordもいうように日本ではインフレは起こりにくい」は、今の失業率が自然失業率に近いと言う主張と相反する。自然失業率はインフレ非加速的失業率(NAIRU)を意味すると思うのだが、インフレが起こりづらいならば自然失業率はもっと低いことになる。人件費が上がりだす前に、失業率が下がるはずだからだ。

「安倍総裁のいうように200兆円の国債を発行して公共事業をやれば」と、財政ファイナンスの話に飛んでいっている。本論とあまり関係が無い。

FRBが失業率と言う目安を入れたのは、FRBが雇用の最大化が義務である事もあると思うが、他にも市場がインフレ目標より理解しやすい基準だからでは無いかと思われる。期待インフレ率や、将来の通貨供給量へのコミットが重要だと言う立場であれば、概ね理解ができるであろう。

追記(2012/12/15 23:40):池田氏の自然失業率はOECDのNAIRUの推定値を見ているのでは無いかと指摘があった。

3 コメント:

POM_DE_POM さんのコメント...

>時間軸政策は『ある方針を時間を限定して、または、ある条件が整うまでと限定して実施する政策』とあるので、用語的にも良く分からない。

デジタル大辞泉は、あくまで一般的な用語として書いているのでは?
少なくとも、金融政策の文脈で使われる場合は「将来の短期金利を低く抑える事にコミットメントする事で現在の長期金利を引き下げる政策」と理解するのが一般的かと思います。
上の表現に従うなら、ゼロ金利を2015年まで実施する政策、または、インフレ率が2.5%を越えるか失業率が6.5%になるまで実施する政策、になるかと。効果の説明は抜け落ちますが。
(金利の期間構造における期待仮説にもとづく政策です。)

先日の内容と重複しますが、カレンダーでのコミットメントでは終了の基準が曖昧(延長するか?の予想)である為、より具体的な経済指標に切り替えることで透明性の向上を図ったようです。



>期待インフレ率や、将来の通貨供給量へのコミットが重要だと言う立場であれば、概ね理解ができるであろう。

いつも思うんですが、何でもかんでもクルーグマンに持っていくのは、uncorrelatedさんの問題点かと思います。
今回の(も?)ネタには関係無い様に思うのですが。

uncorrelated さんのコメント...

>> POM_DE_POM さん
金融政策の文脈でもゼロ金利の解除条件を示す事があり、必ずしも「期間を宣言」しているわけではありませんよね?

> いつも思うんですが、何でもかんでもクルーグマンに持っていくのは

Eggertsson and Woodford(2003)だとテイラールールを破ることになりますが、これも将来の金融政策のコミットメントと言う事で同じですよね?

POM_DE_POM さんのコメント...

>必ずしも「期間を宣言」しているわけではありませんよね

文章の意味を読み違えていました。
あれ?なんで今更、時間軸政策の用語を???とか思いつつナナメ読み><;

仰る通り、別にイノベーションではないですね。


>Eggertsson and Woodford(2003)だとテイラールール(略

「将来の通貨供給量へのコミット」を見て脊髄反射的にまたクルーグマン?ってなっちゃったみたいです><;
上記も含め、将来の金融政策のコミットメントはクルーグマンに限りませんので、僕の指摘はおかしいですね。

ただ、今回のFRBの措置と上記論文の内容はやはり関係が無い様に思うのですが。

もはや何の説得力もなっしんぐ。
ちゃんと読んでからコメントするよう気をつけます(。_ _)。

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