2012年6月26日火曜日

経済思想史家・田中秀臣と経済成長と分配

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経済成長と言うとき、一般には配分や余暇は考えていない」と書いたら、日本経済思想史家の田中秀臣氏が不満がありそうだ。続けて「歴史的には経済成長にともない、貧乏人も消費が増えているし、労働者の余暇や労働環境も改善している」と書いたのだが、お気に召さなかったらしい。

田中秀臣氏が「本当にわかってない」「経済学の教科書レベルの無理解」と言う主張に、多少の補足を行ってみたい。

1. 経済成長は万人に利益をもたらすとは限らない

政府統計の経済成長率は産出量で測っているので、資本家と労働者や、貧乏人と金持ち、若者と老人の間の配分については議論しない。

格差等を議論しない大半の経済モデルでは、労働者間や資本家間の分配についての言及は無い。労働投入量が増えて経済成長したら、大半のモデルでは労働者の取り分は減るであろう*1

現実の事象としては、米国の景気回復の成果が殆ど上位1%の人たちに吸い取られたと言う研究もある。中国で経済成長に関わらず内陸部では生活悪化なども良く聞くニュースのはずだ。

2. 今の日本だと経済成長が必ず社会的弱者のサポートになる?

上のつぶやきだけではトンデモ過ぎると思ったのか、田中秀臣氏は補足を行っている。

いまの日本なら所得再配分政策があるので、貧乏人も金持ちも分け前がある可能性は高い。しかし、それは可能性にしか過ぎない。

所得再配分を強化して経済成長がもたらされた場合は金持ちが損かも知れ無いし、移民を認めて労働投入量を増やしたら貧乏人は損かも知れない。もっと単純に、経済成長に伴うインフレがあるのに、生活保護費が抑えられるケースもあるかも知れない。

3. 経済モデルでの『余暇』の取扱いはご注意

文体を崩しつつ同じ様な事をつぶやかれたので、同じ様な補足をしたい。

「関係していない」ではなくて、「考えていない」と書いたのだが。少なくとも一般に経済成長は産出量で測るので、指標としては余暇の中身や格差拡大などは考慮されない。

古典的な経済モデルでは、全雇用を仮定している場合も多い*2。教科書的なRBCモデルでは技術革新が起きると余暇(=失業)が減るが、誰が雇用されて、誰が失業したままなのかは議論しない。つまり労働者間の配分は考慮されていない。

経済成長はパイを増やすから、大抵のケースでは万人に得なのだが、しかしそれは経験や経済モデルでは保証された結果ではないと言う事だ。

4. 学術的な背景を元にした主張をしない人

以下の発言も、田中秀臣氏は気に入らなかったらしい。

「ある経済思想史の人は、成長論などの学術的な背景を元にした主張をしていないと思う」と言う具体的な根拠として、田中秀臣氏の経済モデルを考慮していない上述の一連のTweetを示したい。

日本経済思想史の専門家なので、別に数理モデルに忠実である必要も無いとは思うが。

*1ヒックス型の中立技術進歩で経済成長が発生したときには、大抵のケースでは労働─資本分配率は一定に保たれる。労働投入量が増えた場合でも、長期的には資本蓄積が進み労働─資本分配率は元の水準に戻る。

*2ソロー・スワン/ラムゼー/ダイヤモンド・モデルには余暇(=失業)が入っていない。DSGEで労働者を何種類も分けたモデルはあるはずだが、一般にとは言えないと思われる。

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