2012年6月21日木曜日

不安を肯定してもらいたい人々

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放射線の健康被害に関して、ブログやSNS上で積極的に危険性を誇示し、それを否定する説明を行う専門家を批判する人々がいる。

情報が出揃ってきて、そろそろ落ち着いて来るのかなと思っていたが、そうでも無いようだ。

愉快犯的な人々もいるのだが、どうも自己承認欲求が、その原動力になっている人が少なく無い気がする。見ていて、あまり気持ちの良いものではない。

1. 放射線医学や疫学のコンセンサス?

一般には、ラジウムの上で50年生活して1500mSvを浴びた世田谷の92歳の女性の健康状態で決着がついたのでは無いかと思うが、低線量のLNT仮説が強固な研究成果に立脚していると主張する人々がいる。大抵は論が飛躍しがちで、例えば突然、権威の話が出てくる。

年間100mSv大丈夫と言う人は放射線医学や疫学のコンセンサスには反対しているわけで。。。

防護基準としては、ICRPの方針と異なるので反対と言えるであろう。しかし年間100mSvまでの被曝に危険性があると言うコンセンサスは全く無い(*1)。むしろ低線量粋ではLNT仮説の不成立を示唆する事象の方が多い(*2)。だから科学的に言える危険性と言う観点からは、“放射線医学や疫学のコンセンサス”では無い(*3)。

2. 本当は安全でも危険でもいい?

存在しない“放射線医学や疫学のコンセンサス”を主張しだす所が興味深いのだが、放射線医学の専門家の話を却下しようと議論する(*4)ので、実際は専門家の説明などどうでも良いのであろう。

福島在住の人々であれば多少は心情も理解できるが、そう言うわけでも無いケースも多いようだ。また、次から次へと議論を拡散させて、一つ一つの話に決着をつけるのを避ける傾向があるので、真面目に話をしているようには思えない。日本語の読解能力に問題があるのでは無いかと思う時も少なく無い。

つまり、安全でも危険でも良く、主張を認めてもらいたい、つまり自己承認欲求のために不安を主張しているように思える。それは恐らく公害なので、黙って鏡を見つめるなりして大人しくしていてもらいたい。無理であろうけど。

追記(2012/06/21 20:30):慶応義塾大学医学部放射線科講師の近藤誠氏が、Brenner, Doll and Goodhead(2003)Cardis, Vrijheid and Blettner(2005)を紹介して、「100ミリシーベルト以下は安全だとする説は、ここ数年でほぼ間違いだとされるようになっています」と主張している(Science Media Centre of Japan)が、どちらの論文も信憑性には疑念が表明されている(金子(2007))。「放射線医学や疫学のコンセンサス」とは言えない。

なお、近藤氏は1Sv被曝時の過剰絶対リスク(EAR)0.97を紹介しているが、ICRPは0.05としており、示されている値はかなり大きい(過剰相対リスク(EAR)から1を引いた値を紹介しているが、それはEARになるはずだ)。また、1Sv被曝時のリスクを100mSvに当てはめるには、LNT仮説を採用する必要があり、そこの信頼性は疑念がもたれている。

*1金子正人「疫学研究の現状としきい値問題」では、BEIR VIIで低線量域のLNT仮説を科学的であるとした事に関して、以下のような批判が起きている事を述べている。

  1. フランスの医学アカデミーと科学アカデミーが合同でまとめた報告書では、低線量域(100 ミリシーベルト以下)でLNT 仮説を適用することは過大評価だと指摘
  2. 米国エネルギー省は、広島・長崎のデータの公表された解析のみを用いて、LNT 仮説の使用を再び是認したことに科学界の多くが懸念している、と批判
  3. 米国保健物理学会は、低線量では健康影響のリスクは小さくて観察できないか、あるいは存在しないと声明

*2防護基準で低線量被曝にも、LNT仮説を採用させる根拠は三つあるようだ(BEIRⅦ報告書 【翻訳】)。(1)広島・長崎LSSデータ、(2)オックスフォード小児がん調査(Oxford Survey of Childhood Cancer)、(3)放射線生物学の細胞DNA損傷に関する研究。ところが三つとも、科学的に低線量被曝の健康被害を示せていない。

広島・長崎LSSデータは100mSv未満の被曝量での健康被害に関して、統計的に有意な健康被害を示せていない。オックスフォード小児がん調査は、母体がX線検査で10mSvの被曝を受けた子どもの小児がんリスクが1.5倍になると言うものだが、そもそも母体がX線検査を受けているので先天的な問題を抱えている可能性がある(中村(2007))。放射線生物学の細胞DNA損傷に関する研究は、DNA損傷を示す事ができているが、DNA修復機構の評価ができていない。最近の研究(MITnewsBerkeley Lab News Center)では、低レベルの被曝ではDNA修復機構は効率的に機能する事が示されつつある。

加えて言えば、チェルノブイリの経験(金子(2007))やネズミでの実験結果(S. Tanaka et al.(2003)ATOMICA)も、低線量被曝の危険性を否定している。LNT仮説に関する論争は色々あるが、どちらかと言うと懐疑的にとられていると考えて良いであろう。ラムサールやガラパリの高線量地域に住んでいる人々の存在や、1日当たり1mSvと言うISS滞在宇宙飛行士の被曝量(JAXA)も、LNT仮説に疑問を投げかけている。

*3統計的に安全性は検出できない(関連記事:「統計学的に安全」とは言えない)し、ラムダム化実験で人体を扱う事はできない。今後、原発事故が多発して、疫学的にもっと強固なデータが得られる事も無いであろう。恐らく周辺証拠は集まるが、決定的な研究は行われない。

*4山下俊一長崎大学教授はチェルノブイリの放射性物質の疫学研究などで実績がある、放射能汚染と健康被害に関する権威のはずだが、何故か不安を煽る人々はその主張を否定する(関連記事:環境保護団体が福島県民を傷つける)。

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