2012年12月23日日曜日

日銀はマネーストックを制御可能なのか?

このエントリーをはてなブックマークに追加
Clip to Evernote
Pocket

中央大学経済学部教授の浅田統一郎氏が一般向けに「安倍新政権の金融政策の経済学的根拠について」と言う記事を書いている。安倍総裁がその論拠を明示した事は無いので、浅田主張が安倍氏を代弁するものかは分からないが、浅田主張は近年の金融政策における論調と乖離しているように思える。

浅田氏は「各国のインフレ率とマネーストックの成長率の間には統計的に密接な関係があり」「日銀はマネーストックの増加率を1980年代の5分の1の年率2%前後に抑えるようになり」「20年間にもわたるデフレ不況を定着させた」と主張する。しかし、日銀が直接制御できるのはマネタリーベースであってマネーストックではない事を思い出すと、日銀がマネーストックを抑えているのかは疑問が残る。

名目金利の非負制約から生じる流動性の罠になければ、マネタリーベースの増加はマネーストックを増加させるであろう事に異論は無い。しかし、ゼロ金利に到達した後の流動性の罠にある状態でのマネタリーベースの拡大、つまり量的緩和がマネーストックを増加させることが無かったことは、2001年から2006年の日本や、リーマンショック後、つまり2009年以降の欧米各国のデータからは自明のように思える*1

浅田氏は巧妙に「ある国のインフレ率は中長期的にはその国に存在するマネーの成長率によって最も大きな影響を受け、マネーの成長率を制御する能力と権限を持っている機関は中央銀行だけである」と、マネーがマネタリーベースを意味するのか、マネーストックを意味するのかの言及は回避しているが、実体経済に影響を与えるのはマネーストックの方である。中央銀行がマネーストックをコントロールできなければ意味が無い。

近年のマクロ金融政策界隈では、この日銀が操作できるマネタリーベースと、実体経済に影響を与えるマネーストックの分断と言う問題に直面した事から、金融政策には限界があると言う主張と、非伝統的な金融政策を試みるべきと言う主張が行われているように思える*2。つまり流動性の罠を認めるからこそ、インフレ目標政策や買いオペ対象の拡大が議論されているわけだ。浅田氏の説明からは、流動性の罠が抜けている。

*1近年のマネタリーベースとマネーストック、それらとインフレ率との無相関ぶりは良く知られている(平成23年度年次経済財政報告第1-2-15図, 森澤(2009))。実際に日銀(BOJ)のバランスシートは、米連銀(Fed)や欧州中央銀行(ECB)よりもGDPに対して高いレベルだ。リーマンショック後の増加率が低いと言う議論もあるが、ゼロ金利達成後はFRBもマネタリーベースの拡大は限定している(関連記事:FRBやECBと、日銀のリーマンショック後の緩和規模が違う理由)。

*2理論的な支柱であると思われるKrugman(1998)、Eggertsson and Woodford(2003)、Auerbach and Obstfeld (2005)等の主要論文は、この流動性の罠を前提に分析と議論を行っている(関連記事:クルッグマン論文を使って、池田信夫を応援する)。

1 コメント:

POM_DE_POM さんのコメント...

20年前のマネーサプライ論争から1歩も進んでない気が。


>流動性の罠を認めるからこそ、インフレ目標政策や買いオペ対象の拡大が議論されているわけだ

皮肉な事に、これを認めないからこそ、彼らは単に金融緩和が不十分だと言い続ける事が出来るのだと思います。
認めてしまえば、記事の大半は意味の無い話になってしまいますから。

単なる日銀批判の為のポジショントークなんでしょう。

コメントを投稿