2012年6月1日金曜日

離婚の容易化で結婚生活に幸せを

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結婚の経済学と言えば、Becker(1973, 1974)が名高い。ベッカーはノーベル経済学賞を取り、その研究は社会学者にも影響を強く与えたため、結婚や子育ての話になるとよく参照されている。

しかし近年の日本の晩婚化・少子化の説明でも良く引用されているのだが、現在の日本の状況を表すのには、実は適切ではないかも知れない。原論文を簡素化して解釈しつつ、少し異なった見方を提案してみたい。

1. 家庭内生産物の交換モデル

ベッカーのモデルは、言わばフルタイム労働者の女性が結婚を機にパートタイマーで働くようになるモデルだ。夫は家事負担から解放されるので心置きなく残業に励む事ができ、妻はパートタイマーになって時間を確保し、家事労働を行う。

家事労働は、家庭内生産物の生産として表現する事ができる。家財を共有する事などによる消費の効率化の効果もあるが、単純化して賃金と家庭内生産物の交換経済と捉えても良いであろう。するとエッジワース・ボックスで以下のように表現ができる。

このエッジワース・ボックスでは左下に行くほど妻の効用(=幸せ)が増し、右上に行くほど夫の効用が増す。ただし原点に対して凸なので、賃金と家庭内生産物の消費バランスが良い方が効用が増す。同じ効用水準の線を無差別曲線と呼ぶが、初期配分を通るの夫と妻の無差別曲線の間に、レンズ状の区間ができている。夫と妻が賃金と家庭内生産物の交換を行う事で、相互の効用を増す事ができる。これが、結婚の効果になる。

2. 競争的な配偶者獲得競争

レンズ状の区間で、それ以上交換を行う事で夫婦両方の改善を行う事ができない領域(契約曲線上の点)をコアと呼ぶが、このコアのどこに交換が定まるのであろうか?

無数の同じような男女がいる場合は、だいたい交換レートの相場が決まってくる。結婚指輪が給料何ヶ月分だったと言う懐かしい話もあるが、何にでも相場と言うものがあるものだ。それが競争均衡と呼ばれる点になる(本当は競争均衡ではなく、有限のマッチング・ゲームで説明されている)。

賃金も高く家事労働も得意な人は、配偶者を見つけやすくなる。交換経済になるので、異性と異なる財を持つ人も配偶者を見つけやすくなる。多くを持たない人は、多くを持たない人と結婚する事になるであろう。何はともあれベッカーのモデルでは、妥当な配偶者を見つける事が可能になっている。

3. 女性差別の減少と家庭内生産物の価格変化

家電製品の性能があがり、価格が下がった昨今では、家庭内生産物の価格は暴落していると考えられる。女性の労働参加率は90年代以降は増加しており、ベッカー理論の示唆する通りだ。家庭内生産物は収穫逓減であり、その限界生産物が賃金が一致する状態まで家事をするので、女性の賃金があがり、家庭内生産物価格が下がると、家事労働をしなくなる。

ノーベル賞受賞者の理論の説明力は、何十年経っても色褪せない。しかし、交換や消費の効率化による利益は依然としてあるので、結婚しない理由には強くならないかも知れない。結局、ゼロよりマシなら、結婚しておく方が良いからだ。

4. 家庭内生産物は分割するもの?可能なもの?

しかし、家庭内生産物は家事労働なのであろうか。ベッカーはもっと広く定義しているし、実際には信頼関係や子どもの養育の方がそれらしい。分割不可能な家庭内生産物を公共財だと考えて、夫婦の利害関係をコルムの三角(Kolm Triangle)で図示してみよう。

正三角形の中にある配分点を取る。左辺からの最短距離が夫の消費、右辺からの最短距離が妻の消費、底辺からの最短距離が家庭内生産物の量となる。正三角形の性質から、夫婦の消費と家庭内生産物の量の合計値は常に同じになる。

家庭内生産物は結婚後にしか生産できない物を選んだので、初期配分は底辺の夫婦の所得比を表す点になる。エッジワース・ボックスの様に無差別曲線を描く事ができ、均衡点に家計の消費が定まる事になる。これをリンダール均衡と呼ぶ。

5. ホールドアップ問題による家庭内生産物の減少

このリンダール均衡、実は安定的ではない。結婚は夫婦間で縛りがあるためにホールドアップしやすい。「○○○君大好き♥」と言っていた恋人が、朝は起きない弁当は作らない怠惰な妻になる事は良くあるそうだ。腹がたっても、その程度の事では離婚はできない。すると、夫の方も妻に愛情を注がなくなって、夫婦間に亀裂が走る。

つまりモラルハザードにより、配偶者の家庭内生産物への投資にフリーライドして、自分は何もしない人々が発生する。夫婦の最適水準よりは家庭内生産物は減るが、自分の労力は費やさなくて済むためだ。しかし結局は夫の対抗処置で家庭内生産物の量が過少投資になり、効用水準が低下する。姑が嫁を監視するのも合理性があったわけだ。

今はモラルハザードを起こさない嫁を探すしかないのだが、これはスクリーニングが難しい。恋愛を続けるものの結婚には踏み切れない男女が多い事が、良く報道されているが、相手の見極めが出来ない事が大きな要因であろう。この人と結婚して良いのか、もっと良い配偶者が現れるチャンスは無いのか、色々と迷う人が多いのであろう。

6. 離婚手続きの簡素化・サポートの充実で快適な結婚生活を

デッドロックによるモラルハザード、つまり結婚リスクを低下させるには、離婚をしやすくするしかない。もちろん離婚手続きだけではなく、子どもの養育費の問題等も迅速に解決し、シングル・マザー/ファーザーへの生活支援を充実させる必要がある。

コスト的に問題になりそうに思えるが、現実に離婚が容易になればモラルハザードの発生リスクは減って、結婚する人は増えるであろう。結婚による利益も大きくなるわけだから、きっと社会的便益は増える。

離婚手続きの簡素化・サポートの充実で快適な結婚生活を追い求めるのは逆説的な感じがするが、結婚制度を支えてきた社会が変化してきているので、結婚制度も現状維持のままともいかないと言う事だ。古き良き時代の家族観を保持している人も多く、この案には違和感を感じると思うが、これから結婚する人は恐らくそういう家族観は持っていない。

1 コメント:

益田部翔 さんのコメント...

離婚手続きは難解とは思えないのですが,どこに簡素化の余地があると御考えでしょうか.

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