2012年3月7日水曜日

アメリカの外食産業に過労死がない理由とは?

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作家の冷泉彰彦氏がニューズウィークに「アメリカの外食産業に過労死がない理由とは? 」とコラムを書いてある。米国居住者の知識人なので情報として興味深いが、少しポイントが外れた議論になっているようだ。氏の主張をまとめると、(1)役割分担が進んでおり、(2)契約に書いてあることは双方が履行する契約社会なので米国の外食産業に過労死がないそうだ。しかし、これらは説得力がない。

1. 業務分担は過労死を防止しない

コラムでは米国では契約で業務範囲を絞る事を指摘しているが、労働時間内の作業分担の方法が、超過労働時間を決定するわけではない。

同じ人数が店舗にいるとしよう。業務(e.g. ドリンカー(レジ/ドリンク担当)、セッター(ハンバーガー担当)、フライヤー(揚物担当))が完全分離されていたら、ある人は忙しく、ある人は暇になる現象が発生するので、特定の人員の超過労働時間が増えてしまう。流動性があれば、有機的に人員を再配置できるので、多忙は分散される。

2. 契約社会は過労死を防止しない

コラムでは、米国が契約社会である事も指摘している。契約に書いてあることは双方が履行は結構な事だが、契約内容が過労死を誘発するかも知れない。日本の外食産業は三六協定自体が違法だと判決されるケースもあり(大庄・大阪高裁判決「労働者の生命・健康は至高の法益」)、労務契約自体に問題がある場合もある。守られる見込みが薄い労務契約の内容に関心が無いのであろう。

3. 昇進機会と過労死

コラムでは、米国では店舗の人間に昇進機会が無い事に触れられている。実態ベースでは米国はジョブ制、日本はメンバーシップ制の雇用契約になっている。米国は現在の苦労が、将来に報われる事は無い。日本は現在の苦労が、将来に報われる事もある。日本の従業員の方が、過労死リスクを取りやすい。

実際に飲食店でパートタイマー従業員が過労死するケースは聞かない。2007年の日本マクドナルドの過労死問題も、女性店長が死亡している。そういえば米国マクドナルドでは、2004年に60歳のCEOが死亡していた(CNN)が、会社と個人の利益が連動している方が、過労死は発生しやすいようだ。

4. 労働者への啓蒙活動

コラムでは、ちょっと変わった米国の規制を紹介している。『多くの州で「従業員控え室には労働法規の一覧と最低賃金額を記載したポスターを掲示しなくていけない」という法律』があるそうだ。労働法や就業規定を把握している従業員は実際は多くはなく、この点は労使の力関係に影響を与えている。米国のように労働者に自らの権利を啓蒙したら、日本でも雇用主に従業員が反発するケースが増えるであろう。これは日本でも真似するべき制度だと思う。

5. 日本と米国の違い

そもそも米国で過労死が無いのかが分からないが、日本と米国の違いがあるとすれば、単に労働者の権利が維持されているか否かであろう。米国は意外に労働組合が強いが、日本の外食産業は、労働組合が弱い。2006年に日本マクドナルドや日本ケンタッキー・フライド・チキンで労働組合が結成されたが、ワタミには無い。労働組合が労働者の権利改善に必ずしもつながらないケースはある(e.g. 労組の強いGMは破綻した)が、労働時間だけではなく、安全管理義務などを履行させる為にも、従業員にある程度の交渉能力が必要だ。日本でも企業年齢が高い企業は労組がしっかりしている事が多いが、外食産業は淘汰が激しい業界である。米国と異なり企業別労働組合になっている事が、日本の外食産業の雇用環境の最も大きな問題かも知れない。

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