駒澤大学経済学部准教授の飯田泰之氏がシノドスでワルラス法則から、財・資産が超過供給状態なのだから、貨幣は供給不足だと指摘している。ちょっと抜けた説明だ。
ワルラスの法則を「ある市場が超過需要状態であるならば、かならずどこかの市場では超過供給状態になっている」と説明するのは分かりやすくて良い。良く分からないのが、不均衡の原因をすぐに貨幣供給不足に結論するところだ。
1. 競争均衡モデルを整理する
超過需要と超過供給があったときに、何が起きるかを考えよう。まず、ワルラス均衡について概説する。飯田氏が例示する財・資産・貨幣の三財モデルでは、以下のような価格調整メカニズムを備えた市場を考える事になる。
- 財と貨幣、資産と貨幣の交換レート(=価格)が提示される
- 市場参加者が、財・資産・貨幣それぞれの需要/供給数量を提出する
- 需給が一致しなければ、(1)へ戻る
- 需給が一致したので、交換を行う
超過需要と超過供給があったら、交換レートが改訂される事になっている。また、ワルラス均衡だと需給がゼロになるまで誰も取引を行わないし、抜け駆けしても得にならない事も証明されている(パレート極限定理)。
2. 交換レートの調整はされないのか?
競争均衡モデルを基本に考えると、原理上、貨幣の価格は一定(1円=1円)であろうから、財と資産の価格が下がって、需給は均衡する。需給不均衡があるのは、交換レート(=価格)調整がうまく行っていないだけで、貨幣供給が不足しているとは言えない。
だから「(財・資産市場での)需要不足」が、「貨幣供給が足りない」を必ず意味するとは限らない。飯田氏の説明だけでは、論が飛躍している。
3. 価格の下方硬直性と打開策
調整がうまく行かない理由としては、価格の下方硬直性があげられる。何かの理由によって、財・資産価格が下がらないと言うわけだ。デフレで資産価格も大きく下がっているので、価格の下方硬直性があるのか疑う人もいるであろうが、下がり方が不十分だと言う事になる。
構造改革派は規制緩和によって、財・資産価格を下げようとするので、貨幣供給に不足は無い事になる。リフレーション政策推進者は、貨幣を増やす事で需給ギャップを埋めようとするので、貨幣供給が不足している事になる。飯田氏は構造改革派を「論理的に矛盾」と批判しているが、価格調整が上手く行かない理由を説明する必要があるはずだ。素人相手だからって、手を抜きすぎです。
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