社会学者の筒井淳也氏へのインタビュー記事と私の文章が冗長なので、上村祐一氏が「日本で晩婚化が起きているシンプルな理由」で、晩婚化・非婚化に関する原因考察を短くまとめている。
「世の中の84%の女性は、年収が400万円に届かない独身男性を恋愛や結婚の対象外と考えている」ので、その年収に届かない非正規社員(「非正規社員の平均年収は全ての年齢階級において、300万円前後」)の増加が、晩婚化・非婚化の原因だそうだ。筒井氏も「安定した所得を見込めるような職についている男性がどんどん減っている」と指摘しているので、上村氏の考えは筒井氏と同様のようだ。
上村氏の文章からは、女性が結婚相手の男性の年収400万円を基準にしている理由は明確ではないが、筒井氏は妻が夫に経済的に依存できることが結婚のメリットだとしているので、それと同じと考えて良いであろう。何気なく聞くともっともらしい。
しかし、非正規雇用の増加が晩婚化・非婚化の要因だと言う説は、実際の統計データを良く見ていくと、以下のように説得力がとても低い。
- 平均所得が低い時代の方が、未婚率が低い。インフレ調整済みで世帯当たり平均所得が2010年より22%低い1975年の30~34歳の女性未婚率は7.7%であるが、所得が上がった2010年は34.5%である。
追記(2012/03/16 09:10):平均所得が低い時代は、2010年の価値で400万円以上の所得の男性は少数だと思われるが、既婚者は逆に多くなっている。 - 若年層の所得格差と未婚率に相関が無い。大竹・小原(2006)の図表8-13を見ると35歳未満のジニ係数は1984年と1994年ではほとんど差が無いが、1985年と1995年で30~34歳の女性の未婚率は約2倍に上昇している(図録▽未婚率の推移)。
- 非正規雇用者が増加する時期と、未婚率が増加する時期が一致しない。1990年に3.2%だった非正規雇用者は、1997年に5%を超え、2000年以降に急激に増加する(図録▽非正規労働者比率(パート・アルバイト・派遣・契約等の比率)の推移(男女年齢別))。30~34歳の男性未婚率は1965年に10%を超え、1975年以降に急激に増加する。女性の未婚率は1990年以降に急激に増加している(図録▽未婚率の推移)。
- 共働きの増加が考察されていない。女性の社会進出による共働きの拡大は、家計における男性の経済力の重要度を引き下げるはずだが、その影響は観察されていない。
統計データは、筒井・上村両氏の主張を支持しない。計量分析を行えば、ある程度の相関が見られるかも知れないが、主因が他にある事は明白だ。
派遣労働者が無い時代は、低賃金の工場労働者などが存在しており、職業格差は現代特有の問題では無い。メディアが近年増加していると報じており、他の現代的な社会現象と結び付けたくなる気持ちは分かるが、流行り単語で何でも説明しようとするのは問題であろう。
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