2012年3月31日土曜日

2007年のデータで見る出生率決定要因

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男性の非正規雇用の増加が特殊出生率の低下につながっていると言う話があるので、都道府県別データから特殊出生率決定要因分析を、お気軽ミクロ計量分析をやってみた。

結論は、家賃などの住居費が高い地域は特殊出生率が低くなる傾向があり、賃金や失業率、女性の社会進出(男女格差)は影響を持たなかった。また、娯楽のコストが高い地域は特殊出生率が低い。

都市部の方が特殊出生率が低いのは明確に知られている傾向だと思うが、それはより大きな居住空間が必要など、養育コストが大きくなるためのようだ。出生率の低下は不景気や非正規雇用の増加など収入面から説明されることが多いわけだが、養育・教育コストの増加の方が重大な影響を持つのかも知れない。

1. データセット

データソースは「都道府県別特殊出生率」「住民基本台帳に基づく人口・人口動態及び世帯数」「賃金構造基本統計調査」「平成19年全国物価統計調査・全国物価地域差指数」「就業構造基本調査 時系列統計表」をつなぎ合わせた。ウェブ上で入手できるデータでは2007年の単年度データセットしか作れなかったので、サンプル数は47と多くはない。

2. 分析モデル

分析モデルはコブ・ダグラス型の効用関数を持ち、子どもの数が多いほど幸せになる家計を想定したものを用いた。この仮定と効用関数と需要関数の双対性から、所得と価格で構成されたコブ・ダグラス型の需要関数を導出できる。

(合計特殊出生率) = β0(賃金)β1(男女賃金比)β2(住居費)β3(娯楽費)β4

全て都道府県別データで、賃金は平均男性賃金に(1-失業率)を乗じたもので失業率の影響をコントロールしており、男女賃金比は(女性賃金)/(男性賃金)、住居費と娯楽費は全国平均が100となる価格調査の指数を用いた。

経済学的な意味を説明すると、賃金は予算制約を表し予想される符号はプラス。男女賃金比は、女性の出産・育児の機会費用を表し予想される符号はマイナス。住居費と娯楽費は出産・育児のコストを表すため、予想される符号はマイナスである。

なお、他の変数(e.g. 非正規雇用率、教育費、衣服・履物費)も付け加えて分析を行ってみたが、特に有意性も無く、推定結果に大きな変化は無かった。

3. 推定結果

コブ・ダグラス型の関数なので、対数化して推定をしてみよう。推定結果は自由度調整済み決定係数0.5423(重相関係数0.7364)と、概ね良好な結果である。

都道府県別log(合計特殊出生率)の推定結果
変数 係数 標準偏差 t値 P値
切片項 9.391 2.160 4.348 0.000
log(賃金) -0.141 0.156 -0.900 0.373
log(男女賃金比) 0.027 0.277 0.103 0.918
log(住居費) -0.199 0.096 -2.07 0.045
log(娯楽費) -1.611 0.580 -2.776 0.008

推定結果は自由度調整済み決定係数は0.56(重相関係数0.75)で、概ね当てはまりは良い。そしてP値が0.1未満の統計的有意性があるのは、切片項、log(住居費)、log(娯楽費)となる。

log(賃金)の係数の有意性については補足しておく必要があるであろう。価格をコントロールしないと、マイナスの符号で強い有意性を持ち、子育てに最低限の所得は必要だと言う調査結果と反する事になる。都会と田舎の違いが、物価、所得に同時に強く影響を与えているため、都道府県別データでの推定は困難を抱えていると言わざるをえない。

なお、log(娯楽費)の係数が大きいのは単に娯楽費と言うよりも、諸々の養育コストの代理変数になっているためだと考えられる。log(娯楽費)が高いのは、遊ぶのが愉しい地域でもあろうから、育児の機会費用を表しているのかも知れない。

4. 養育コストも分析に加えるべき

実は先行研究で都道府県別データを扱ったものはある。しかし、戸田(2007)では教育費支出割合と養育コストを狭く見ており、小崎(2010)(表2の推定結果)では該当する項目がない。他の研究は確認していないが、軽視されているようだ。

育児を消費(=養育することが幸福)と見なすか、資産(=将来の生活支援を期待)と見なすかは色々あるが、どちらも育児コストが問題になるので、変数選択としては妥当とは言えないであろう。なお、平成17年版国民生活白書によれば、少子化に関わらず所得の伸び以上に教育費が増加する傾向が見られるそうだ。

社会学者の筒井淳也氏へのインタビュー記事を見ても、経済状況を少子化の要因の一つの理由と説明しているのだが、収入面にだけ焦点が集まっているのは疑問が残る。都道府県別のデータは、収入よりも支出の影響が強い事を示唆しているからだ。

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