アメリカがベネズエラに対して(事実上の)軍事作戦*1を決行し、マドゥロ大統領夫婦を拘束し、即座に麻薬テロ、コカイン密輸、機関銃と破壊装置の所持などの罪で起訴した。マドゥロ政権は経済政策に失敗し700万人もの難民を出している上に、不正選挙による民主的な正当性がなく、国民を不当に弾圧している。
この作戦は正義に適っている気がするが、国際法には違反している蓋然性が高く、アメリカ国内法にも抵触していると指摘されている*2。行き当たりばったりで、実効性も低く、今後の計画も無さそうだ。しかし、トランプ大統領にとっては、だからこそ成功になる。
現時点で、アメリカはベネズエラを占領していないし、それだけの兵力も準備していない。マドゥロ大統領の側近が大統領代行になっているので、ベネズエラの体制は維持されている。油田の確保もできていない。犯罪組織トレン・デ・アラグアも、ベネズエラ支配階級の麻薬取引ネットワーク太陽カルテルも温存だ。麻薬密輸量の減少も期待できない*3。マドゥロ大統領夫婦を拘束し起訴しただけの戦果だ。マドゥロ大統領を有罪に持ち込めるかも分からない*4。
地上戦を開始すれば、軍事力の差からベネズエラ政府とトレン・デ・アラグアを駆逐することも可能であろうが、人口が2000万人以上いる国なので、何十万人の規模の派遣部隊が要る。アメリカ政府が中南米で軍事的に体制転換を行った事例は、過去に二つある。1983年のグレナダ侵攻と、1989年のパナマ侵攻だ。どちらも地上部隊を派遣しており、どちらも戦後復興にアメリカは努力している。グレナダの人口はベネズエラの100分の1、パナマは50分の1だった*5。
トランプ大統領が言及している占領政策は、連邦議会が承認しなければならない軍事行動になるが、連邦議会の支持を取り付けていない。ベネズエラ政府の中に親米グループがいてクーデターでも起こしてくれれば地上部隊の派遣はしなくても済むかもだが、政権中枢は反米チャベス派なので*6、そうなる可能性は低いように思える。現在、公になっている情報では、アメリカ市民にとっても、ベネズエラ市民にとっても、今後の状況の改善は見えない。第2期トランプ政権の浅薄さは今に始まったことではなく*7、深謀遠慮があるとも思えない。
マドゥロ大統領夫婦の拘束と起訴は、小さな戦果である。しかし、トランプ大統領個人としては成功だ。成果として支持者にアピールできる。トランプ大統領の支持者は、トランプ氏の言動が適法か否か、真実か否か、帰結が良いか悪いかは重視しない。有罪となった麻薬密売人に恩赦している*8ことも、気にはされていない。ベネズエラを掌握する目処が立っていないのも、トランプ大統領にとってはプラスだ。MAGAは、イラク戦争などのアメリカの対外軍事行動がアメリカの負担であると、非難してきた。既に非難はされているのだが、ベネズエラ統治などが現実にならない限り、大きなものにはならない。
*1米国の国内法に基づく執行に米軍が協力したことになっている。
*2Opinion | Trump’s Attack on Venezuela Is Illegal and Unwise - The New York Times
*3ベネズエラのコカイン密輸もアメリカへの流入量は多くはないとされ、さらに現在、主に問題になっているのはフェンタニルである。
*4昨年の2025年4月の時点ではマドゥロ大統領がトレン・デ・アラグアに関与している証拠はなかった(Fact-checking Trump's claims after U.S. strike on Venezuela and capture of Maduro | PBS News)。12月に元ベネズエラ軍高官が関与を証言する書簡を送ったと言う報道があったが、物証は乏しそうだ。証言は他にもあり蓋然性は高いと思うが、裏がとれているかは分からない。
*5規模の大きいイラクでは、米軍など多国籍軍によるフセイン政権崩壊後、スンナ派勢力やISLMなどが出現し、イラクからシリアまでの地域が大きく不安定化した。アフガニスタンの場合は、一時的にタリバンを排除できたが、親欧米勢力の行政能力が十分に高くならず、結局、タリバン政権が全土を掌握し直すことになった。
*6ベネズエラの権力中枢は「マドゥロ排除」後も結束を維持 | 記事 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト
*7次のような冗談かという事例もある:米連邦地裁、トランプ大統領「政敵」の起訴を棄却 担当検察官の任命が違法 - CNN.co.jp


0 コメント:
コメントを投稿