2012年5月14日月曜日

白川日銀総裁はRBC好きの淡水派

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財政赤字の拡大と日銀の国債保有量の増加が制御できないインフレをもたらすと言う白川日銀総裁の言葉について、経済評論家の小笠原誠治氏がタイトルのように言っている(経済ニュースゼミ)。

しかし、どう解釈すべきかと言われても、白川総裁がリアルビジネスサイクル(RBC)理論好きとしか思わない。不可解に見えるらしいが、理論的根拠は明確に思える。

1. 標準的RBCの教えるマクロ経済

RBCのリアルは実物の意味で、通貨供給量とかインフレ率が無い世界で景気循環を説明する理論の総称だ。標準的なRBCモデルでは、実物で何か生産ショックが起きても、ほっとけば失業率や国民生産は定常状態に段々と戻ってくる事になるし、常にパレート効率的な状態を保っている。実物の世界なので当然、マクロ金融政策で失業率を下げたりする事はできない。

2. RBCはマクロ経済学の金字塔

80年代にマクロ経済学を勉強した人には、とても印象の強い理論であると思う。家計や企業の行動に基礎を置くようになったし、動学的最適化行動で数式の見栄えが良くなったので、マクロ経済学の構造を刷新している。定常状態を外れても、だんだんと戻ってくる所が描写されているのも、絵的に面白い。計算ができないのでコンピューターで数値解を求めると言うのも、RBCから始まっているはずだ。

3. RBCではマクロ金融政策は無効

白川総裁がRBC好きか明確ではないが、RBCをベースに考えている人から見れば、今のマクロ金融政策が悪いと言う認識は無いはずだ。そもそもショックがあっても定常状態に自然に戻るはずなので、日銀が出来る事も、すべき事もほとんどない。もちろん災害などによる金融システムの混乱などミクロ金融的な問題に対処する必要はあるので、マクロ的にと言う事だ。

4. RBCでスタグフレーションが説明できる

白川総裁が「歴史の教訓」もRBCと関連が深い。米国で60年代から70年代後半にインフレと低成長が同時に発生するスタグフレーションが起きたのだが、RBCはそういう状況を良く説明する。景気変動が生産ショックで起きている場合にマクロ金融政策で状況を改善しようとしても、インフレしかもたらさない事になる。

5. RBCからDSGEに発展

ルーカス批判と言う古いマクロ経済学の駄目出しから生まれたRBCだが、RBCに対する批判も多くある。代表的個人の存在や、価格の粘着性などの要素の欠落があげられる。問題を改善したマクロ経済学のモデルはDSGEと呼ばれており、今のマクロ経済学の主流だ。DSGEへの批判も少なく無いが(関連記事:リフレ政策よりもDSGEの信頼性が問題)。

6. RBCの現実説明力

RBC好きは米国の内陸部に住んでいる事が多いので、淡水派と呼ぶそうだ。RBC好きの淡水派が構造改革をしろ、マクロ金融政策に頼るな、国債引受けは“制御不能なインフレ”になると言うのは、そう突飛な主張ではない。インフレ期待を引き上げる必要も無いのであろう。ただしノーベル賞経済学者のクルッグマンは、構造改革派は大昔から同じ主張で、現実の説明力が低いと強く淡水派理論に対して批判を行っている。

2 コメント:

TKazawa さんのコメント...

RBCでは現状でリフレ政策を導入するとどういう弊害が生じると見るのでしょうか?

uncorrelated さんのコメント...

>>TKazawaさん
標準的なRBCの世界で通貨膨張政策を行うと、物価があがるけれども、実質GDPはあがらず、失業率も下がらない事になります。無駄と言う事ですね。

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