経済学を多少学んだ事のある人には、常識的で当たり前な事を紹介したい。少子高齢化が自然利子率を低くする理由だ。
代表的な世代重複モデル(OLG)のDiamond(1965)を引用して終了なのだが、どうも経済評論家の人々には明白ではないようだ。そんなに難しい話でもないので、簡単にOLGを紹介をしてみたい。
1. IS-LMやDSGEとOLGの違い
古典的モデルなわけだが、さらに古典的なIS-LMモデルと流行りのDSGEとの違いに触れておこう。
- 永久に生きる代表的な個人がいない
- 家計/企業の効用/利潤最大化問題が組み込まれておりミクロ経済学的な基礎がある
- 完全雇用状態で、供給サイドで全てが決定される
- 名目利子率と実質利子率の違いが無い
長期分析には向いているが、短期分析には向いていないかも知れない。
なお、伝統的ケインズモデル(IS-LM)とDSGEの違いは江口允崇氏が日本経済新聞「やさしい経済学:財政政策の効果(1)~(9)」でやさしく紹介されている。
追記(2012/05/11 15:30):複数世代が存在するDSGEモデル(DSGE models in OLG frameworks)も存在し、そちらはOLGとの違いは曖昧になる(BIS)。
2. コブ・ダグラス型関数で簡単に把握可能
消費関数や生産関数を一般形で解くと数学的な素養が必要になるが、コブ・ダグラス型関数を仮定する事で、容易にモデルの全体像を把握する事ができる。実際にDiamond(1965)では例題として説明がついてくる。この例題部分をざっと読むとOLGは理解しやすいので、以下で実際にモデルを解いていってみたい。初歩的な微分の知識で理解できるはずだ。
3. 家計部門の効用最大化問題
早速、少し数式の展開を補足しながら、Diamond(1965)中のコブ・ダグラス型関数の例を見ていこう。
t期にwtの賃金を得てetの消費とstの貯蓄を、t+1期に貯蓄と利子rt+1からet+1を消費する個人を考えよう。2期間生きると個人は死ぬが、毎期、新たに個人は生まれてくる。ゆえに若者世代と老人世代が同時に存在するため、世代重複モデルと呼ばれる。
コブ・ダグラス型の効用関数を仮定する。
コブ・ダグラス型なので最適な分配率は自明ではあるが、上式を最大化するにはt期にβ、t+1期に1-βの比率で消費する事になる。
手順を追って最大化の条件を導出してみよう。まずは、t+1期は利子がつくだけ貯蓄よりも多く消費できること、つまりet+1 = (1 + rt+1)stに注意して、ラグランジュアンを置く。
一階条件を整理する。
上の二式を整理してみると、比率が定まっている事が分かる。
利子率が厄介に思えるが、et+1/(1 + rt+1) = stである事に注意すると、t期の消費と貯蓄の配分に利子率は影響を与えない。
wtと1-βだけで貯蓄stが決定される。
なお、一人当たり貯蓄になる。
4. 企業部門の利潤最大化問題
賃金wtがどう定まるかを考える。コブ・ダグラス型の生産関数を仮定する。
一人当たり資本で考えるために、労働力Lで割ってみよう。
t+1期のkは労働力増加率1+nとt期の貯蓄stで決定されkt+1=s/(1+n)になることと、(3.1)式に注意すると、t+1期の一人当たり生産量は以下のようになる。
一人当たり生産物f(k)は、資本分配分と労働分配分(賃金)に分けられる。ここで競争均衡状態では金利rt+1は、資本の限界生産性に等しくなる事を思い出そう。
労働分配分(賃金)は、生産物から資本分配分(金利×資本)を引いたものである。
t期のrtとkの関係を整理しよう。
式(4.2)と式(4.3)を整理すると、以下のようになる。
5. 資本市場の状態
式(4.4)を式(4.1)に代入すると、以下の式が得られる。
収束するのか不安になるが、対数化して1期のラグをとった式を整理するとα≦1なので収束条件を満たしている事が分かる。
収束点ではrt+1=rtになり、これを式(5.1)に代入すると、均衡利子率rEを求める事ができる。
下の図は式(5.1)に沿ってrtが均衡rEに収束する過程を図示したものだ。rEが安定的である事が分かる。
6. 黄金律(均斉成長)
rEは例外的なケースを除けば、毎期の一人あたり消費を最大化する点ではない。今期の生産物と資本の合計が、来期の資本と消費に一致する事を思い出そう。Ctをt期の消費とする。
均衡状態では毎期の一人当たり資本は同一だ。
つまりKtとKt+1は労働力増加率で表せる関係になる。
上式を(6.1)式に代入して整理しよう。
Lで割って一人当たり消費量の指揮に整理する。
Ct/Lの最大化の一階条件は、金利と人口増加率が一致する点だ。
大半のケースでは、この条件は満たされない。コブ・ダグラス型関数の例だと、n=α/{(1-α)(1-β)-α}のときのみ成立する。このエントリーの関心とは逸れるが、元論文では大事なポイントなので補足した。
7. 少子高齢化と利子率
(5.2)式が意味する事は明確で、少子化(nの減少)が起きたり、引退生活が長くなったり(1-βの増加)すると自然利子率が低下する。これは、モデルが想定するような需給ギャップが無い世界では問題はないが、需給ギャップがありえる状況を考えると問題を引き起こす可能性がある。
8. 政策的インプリケーション
大災害で資本減耗率が極端に大きくなったり、金融ショックで投資収益率が急激に低下をしたりして、外生的なショックがあるとモデルにおける利子率(現実の世界では投資収益率)が大幅に引き下がる事になる。場合によってはマイナスになる事があるかも知れない。利子率がマイナスになると、金利の非負制約で需給が均衡せず景気が悪化する。
自然利子率を引き上げるには、年金の受給開始年齢を引き上げる事(1-βが減少する)、少子化対策か外国人労働者の受け入れ(nが上昇する)は、このモデルからは正当化される。他にも日銀がデフレの原因を少子高齢化を求めるのも、ある程度の説得力があるのが分かるであろう。逆に自然利子率が負になるリスクがあるなら、インフレ気味の経済政策が必要と言う根拠にもなりそうだが。
なお、Diamond(1965)は一般化した効用/生産関数を用いて政府の内外債務と利子率と消費者の効用を議論しており、上述とは全然別の論文になっているので注意されたい。紹介したの24ページの論文中の1ページぐらいの内容だ。
9. さらなる学習のために
最も基礎的なOLGのオーバービューをしてみたが、あくまで基礎中の基礎でしかない。さらに詳しくなりたい人は、Diamond(1965)、平田(2012)、林(2012)などを読んで勉強してくださいヽ(´д`)ノ
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