2010年10月4日のハンガリーの首都ブダペストから西に約150kmはなれたヴェスプレーム県にある街アイカに所在するハンガリーアルミナ生産貿易会社の
この鉱滓ダムは、重金属などの有害物質と水分を分離するために、アルミニウム精製時に生じる廃棄物(スラグ)を貯めていた。このスラグは、重金属や水酸化ナトリウムなど毒性および腐食性の高い物質が含まれた赤土であり、触れると火傷を負うため危険である。
1. 事故の被害・汚染状況
下の写真の右下に鉱滓ダムはあるが、そこから広範囲に被害が広まっている事が分かる。
決壊によってこの赤土が約85万立方m流出し、周辺約16Km四方が汚染され、死者7名、負傷者150名、行方不明者2名が出ている。泥流は一時高さ約2mに及んだと言われ、ドナウ川の支流であるティサ川に流れ込んだ。ティサ川では魚などの生物が死滅し、ドナウ川でも強い塩基性が出るなどの影響が出ているという。また、土壌で汚染された部分も強いアルカリになっており、このままでは農地として利用はできず、宅地でも健康被害が心配される。
2. アルカリは中和できるが、重金属は除去できない
リハイ大学の土木環境工学部教授Wei-xian Zhang氏は、廃棄場を作り、表土をそこに捨てることで汚染物質の95%を除去できるというが、地中深くに染みこんだ残りの5%の汚染物質の除去は至難のようだ。アルカリ自体は、放置しておいても空気中の二酸化炭素で数十年で中和されるし、酸性の添加剤で早めることもできるが、ヒ素、水銀、クロムなどの重金属の除去に有効な解決方法は無く、目処がつかないのが実際のようだ(POPSCI)。
3. 新技術は開発途中
近年話題になっている、重金属を吸い込むエアロゲルや、重金属を食べるミミズや、金や鉛を蓄積するヒョウタンゴケなどが土壌浄化に使えそうだが、実際のところは研究段階で、今回の事故の復旧にはすぐに使えそうに無い。例えばエアロゲルはBPの原油流出事件に実際に使われたものだが、汚染土壌を掘り起こしてエアロゲルを接触させる必要がある上、重金属を吸い込むエアロゲルの開発には数年はかかるようだ。重金属を完全に除去できない以上、健康被害を考えれば、村を放棄する選択も現実的にとらざるをえないかも知れない。
4. 類似の事故の発生が危惧されている
なお、鉱滓ダムの決壊事故は日本や米国などの先進国でも稀にではあるが発生しており、一定以上のこの種のリスクは常にある。さらに、東欧では低い安全基準の鉱滓ダムが多数存在すると考えられており、同種の事故が続くことが危惧されているようだ。実際に、2000年にはルーマニアで金鉱の鉱滓ダムが決壊し、猛毒のシアン化合物を含む廃液がティサ川、そしてドナウ川へと流出して、河川に大きな環境被害をもたらしている(ナショナルジオグラフィック)。
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