2013年5月14日火曜日

ある理論モデルの中の年金制度と現実の違い

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年金支給年齢の引き上げが、資本蓄積を阻害するので経済成長に悪影響と言うFanti(2012)と言うペーパーが話題になっていた。id:himaginary氏が前に紹介していたものだ。生涯の消費を平準化したがる個人を仮定している*1ので、老人の収入源があるほど、若者の貯蓄=投資意欲が低迷し、資本蓄積が遅れると言うモデルになっている。

気になった事が一つあり、年金制度の定式化が現実と少し異なる。大抵のケースで年金は確定給付型になっているのだが、このモデルでは年金保険料が先に決まっている確定拠出型になっている。

論文の式(P)を見てみよう。λ:年金生活期間、z:年金給付額で、λz:生涯年金受給額となり、老齢期の消費の足しになっている。tは時点。さて、このzの決まり方が少し奇妙だ。

経済全体の給付金額は、(8)式を見ると若者世代が払った保険料と、老人世代が払った保険料の合計になっている。τ:年金保険料、w:賃金、N:人口として、λztNt-1 = τwtNt + τwtNt-1(1-λ)。

(9)式で整理されており、zt=τwt(2+n-λ)/λとなっている。nは人口増加率で、Nt=(1+n)Nt-1に注意しよう。生涯年金受給額は、λztは、τwt(2+n-λ)になる。賃金が一定ならば、年金生活期間が短くなるほど、生涯年金受給額が増える。

年金支給年齢の引き上げで、生涯年金受給額が増えるケース、あったっけ? ─ 実際は年金保険料の引き下げか抑制が行われるので、λと同時にτが下がり、λzも下がる。すると、老齢期の予算が不足するので、人々は若年期にもっと貯蓄するようになる。

論文では定年先送り(λ↓)は経済に悪いと言う結論を出しているのだが、それは年金保険料が一定である事を前提としていて、現実の年金制度改革における議論とは、かなり乖離があるように思える。

なお、ディスカッション・ペーパーで、この論文は最終版とは限らない。研究途中だから粗がある事は問題が無いのでご注意を。

*1対数線形型の効用関数が仮定されており、異時点間の消費の代替の弾力性が一定になる。

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