2012年3月10日土曜日

所得再配分は経済成長につながる

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経済評論家は、所得再配分は経済成長につながらないと思い込んでいる事がある。2月20日の衆院予算委員会の「企業収益より所得再分配に軸足」と言う発言からは、枝野幸男経産相もそう思っているようだ。

これは経済成長を重視する資本主義者と、所得再配分を重視する社会主義者の神学論争からもたらされたものだと思うが、経済学的にはそうとは言えない。むしろ一般的な経済学の文脈では、所得再配分は経済成長につながると考えられている。教育投資の面から分析した代表的な論文を簡単に紹介したい。

1. 所得格差と教育機会

教育機会を考えると、所得再配分政策無しでは格差が広がり、それが経済成長を押し留める可能性がある事は、昔から危惧されていた。それを世代間重複(OLG)モデルで理論的に説明したのがGalor and Zeira (1993)だ。

教育が労働者の所得を高め、かつ卒業するまで頑張らないと、教育が効果を生まないとしよう。一定年数以上、つまり一定金額以上の教育投資を行わないと、教育効果が得られない。教育投資の原資は親からの資産、もしくは教育ローンであるとする。この状態で家計ごとに親からの相続に差があるとすると、家計は3種類の経済状態に分かれる事になる。

(1) 進学しない貧困層
学費を節約する代わりに、その分を投資する事ができる。しかし所得が増えないので、貧困層として定着する。下図e1が均衡点になる。
(2) 進学するが教育ローンに苦しむ中間層
資産不足で進学するので、大きな教育ローンに苦しむ。進学する事で消費は増えるが、相続したよりも少ない遺産しか残せない。代を重ねると、進学しない貧困層に転落する。
(3) 進学する富裕層
学費が問題にならない(教育ローンを借りても僅か)ので、進学する事で消費を増やすことができる。富裕層として定着する。下図e2が均衡点になる。
注) 論文中のモデルでは、子への遺産と自分の消費が入った利他的なコブ=ダグラス型の効用関数を置いて、親からの相続分と自分の収入を予算制約とする制約付最大化問題を解く事によって、相続する金額と遺産を残す金額の関係を整理している。貧困層、中間層、富裕層の区分けは数式を使わないために勝手に行った。厳密な議論は原論文を参照されたい。

初期状態に関わらず、(2)のグループは消滅するため、家計は二極化する。進学する事で労働生産性があがり、所得が向上する事が仮定されているので、(3)が多い方が豊かな経済となる。経済成長につながると解釈して良いであろう。(3)のグループには遺産が十二分にある家計も多く、(2)のグループへ所得再配分を行う事で経済全体の底上げをする事ができる。

2. 所得再配分の重要性は理解されづらい

国民所得や生産性の向上を至上命題とするシバキ系経済政策として、教育の経済的負担を緩和し、機会の平等を保証する事が正当化されるのは興味深い。所得再配分の方法としては、教育無料化などが直接的に支持される。

欧州等では教育無料化が推し進められて来た一方で、米国では積極的な施策が取られておらず、むしろ削減方向のようだ。米国の学費への公的援助の削減については、ノーベル賞経済学者のクルッグマンの批判マイクロソフト社創業者のビル・ゲイツ氏の批判などが伝わって来ている。

計量分析などでは、所得格差は成長率を抑制する傾向が報告されているのだが、米国では支持されていないようだ。経済政策以前に、米国は文化的に平等な教育を受け入れ難いのかも知れない。

3. 日本でも所得再配分政策は必要

日本に適応可能な議論なのかは、もっと詳細な議論が必要だ。しかし貯蓄を見ると「平均値(1657万円)を下回る世帯が67.2%(前年67.6%)と約3分の2を占め」(平成22年度 家計調査(貯蓄・負債編))、ジニ係数も拡大傾向と言われる(図録▽所得格差の長期推移及び先進国間国際比較)。高校進学などが問題なる可能性は低いと思われるし、育英会奨学金などもあるが、大学教育等への配慮はもっと必要かも知れない。Galor and Zeira (1993)のモデルを超えた議論になるが、十分な教育投資をできない親は、出産自体を制限している可能性もある(関連記事:特殊出生率の引き上げ方)。

4. 問題点:教育は生産性を向上させるか?

所得再配分が経済成長につながるのは教育チャネルだけではないのだが、Galor and Zeira (1993)にある問題点を指摘しておきたい。

まず、教育によって労働生産性が高まると言う前提が満たされているのか議論が残る。読み書き算数のような初等教育であれば疑いは無いのだが、大学教育等は常に批判にさらされている。MBAを取得するメリットで、同窓とのコネクションが出来る事は良く言われているが、それ以上の効果が無いとも考えられる。

次に、教育効果があるにしろ、お金をかければ教育効果が高くなるとも限らない。ビル・ゲイツ氏の少人数クラスの教育実験も失敗している(WSJ)。所得再配分するだけでは無く、効果的な教育方法を模索する必要もあるだろう。

5. 資本主義者 vs 社会主義者からの脱却が必要

日本には何故かミルトン・フリードマンに感化された経済評論家がいて、とにかく自由化や政府の関与を嫌う傾向がある。枝野氏もそれに感化されたのかも知れないが、話を聞く相手を変えた方が良い。

多くの経済学者はアロー=ドブリュー型の一般均衡理論から自由主義経済は基本的に肯定しているが、市場に内在する問題も無視しているわけでもなく、各論ではケース・バイ・ケースで考えている。

リベラルな政策とシバキ系政策が、実際は同じ方向を向いている事も十分にありえると言う事だ。個別の政策は、個別に分析してみる価値がある。直感的に資本主義者的か社会主義者的かで評価するのは、賢い方法に思えない。

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