2010年12月7日火曜日

細胞内のリアルタイム動画を撮影できる顕微鏡が開発される

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誘導ラマン散乱(SRS)を応用した、細胞内の血流を撮影可能な顕微鏡を、ハーバード大学化学・化学生物学学部のBrian G. Saar氏、Christian W. Freudiger氏、X. Sunney Xie氏らのチームが開発した。

発光物質や放射性物質などのマーキング無しで、細胞内の動きを見る事ができるのが、大きなアドバンテージになる。右の写真は、それでマウスの皮膚を撮影したものだ。研究成果はScience誌に掲載される(EurekAlert!, BioPhotonics, C&EN)。

開発された撮影技術は、脂質(CH2基、下の写真の赤)やたんぱく質(CH3基、緑)、水(OH基、青)の動画を、それぞれ撮影できるようだ。

誘導ラマン散乱は、レーザー光を分子に照射して錯乱光を観察することで、構成されている分子を判別する手法だ。原子に光をあてると、光の波長(振動数)が変化した錯乱光が観察される。入射光と錯乱光の波長の差は、原子間の化学的結合に内在する振動によって決まるので、分子を特定することができる(下図)。この誘導ラマン散乱は、光ファイバーの光の増幅にも応用されているそうだ。

撮影された動画は、POPSCIの記事で見る事ができる。

医療分野で応用が期待されており、Xie氏によると従来は約20分かかった手術中の検体検査などを迅速に行う事ができるようになるそうだ。Xie氏のチームは、既にSRS顕微鏡を用いて、局所薬の吸収に注目して、皮膚治療の効果追跡を行っているそうだ。さらに内視鏡に接続することで、層ごとになった3Dイメージも作成することができる。

分子生物学でも応用が期待されている。分子生物学の分野で既に使われている、下村脩氏が発見した緑色蛍光タンパク質(GFP)は鮮明な映像がとれるが、分子の大きいタンパク質を生体に注入することになるので、生物学的経路を混乱させる可能性がある。赤外線顕微鏡は、空間分解能が低く、乾燥した物体にしか使えないので、応用範囲が狭い。Xie氏らが以前に開発していたCARSは、脂質を超えるほとんどの分子では、鮮明な画像を得ることができない。ただし、高出力のレーザーを長い時間照射する必要はあるようだ。

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