2010年9月21日火曜日

グロービッシュはネイティブのためのツールで、日本人のための英語ではない

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ニューズウィーク2010年6月30号と東洋経済2010年9月18日号で紹介されたグロービッシュが、英語学習法を紹介するBLOGなどで取り上げられている。雑誌での取り扱いでも疑問に思っていたのだが、グロービッシュは明らかにネイティブ向きで、ノン・ネイティブ向きのツールでは無い。つまり日本人は、覚えても始まらないのだが、なぜか反響が大きいようだ。

1. グロービッシュが考案された経緯

そもそもグロービッシュとは、ネイティブとノン・ネイティブが英語で意思疎通するより、ノン・ネイティブ同士が英語で意思疎通するほうがスムーズであったという、発案者ジャン=ポール・ネリエールの経験から生まれたそうだ。ネイティブの言い回しが難しいので、ノン・ネイティブが理解するには表現を簡素化する必要があった。

つまり、ネイティブとノン・ネイティブの意思疎通の問題を解決するために、ネイティブに易しい英単語を使ってもらおうというのが、グロービッシュの始まりだ。

2. ネイティブの口語表現は、ノン・ネイティブにはできない

非グロービッシュな英語の例文として、あちこちで以下のものがあげられているが、恐らく赤字の部分が口語表現で、ノン・ネイティブには分かりづらい部分だ。

Native English speakers can’t quite hack it when they need to dumb down to the 1,500 key words. The language they have to speak or write is expected to be kosher, if not perfect.

以下のように書き変えれば、ノン・ネイティブにも分かりやすい。

Native English speakers have great difficulties when they want to reduce their words down to the 1,500 key ones. On top of that the language they have to speak or write is expected to be correct, if not perfect.

さて、hack、dumb down、kosherなどの表現を好んで使うノン・ネイティブはどれぐらいいるのであろうか。ほとんどいないと思われる。つまり、ノン・ネイティブは平易な表現しかできないので、自動的にグロービッシュな言い回ししかできない。

3. 日本人が中学校で習う英単語数は2,000語

中高で英語を習った人は2,000語以上の英単語があるはずで、全てグロービッシュの基本1,500単語よりも多い語彙力を持つ。そもそも、辞書を片手に英語の文章を読むだけで3,000語ぐらいは必要だと言われている。1,500単語だけを覚えても、何の役にも立たないのは確実だ。

4. ネイティブは、グロービッシュでは話しかけてこない

ネイティブがグロービッシュで話せば、ノン・ネイティブが理解しやすいのは確かだ。しかし、ほとんどのネイティブはそんな話し方をしない。だから、グロービッシュを覚えても、ネイティブの話す英語は理解できない。もちろん、インドやフィリピンなどの準ネイティブの人々も豊富な語彙で話しかけてくる。

英米の新聞の記事と、英米のBLOGの記事を比較してもらえば分かると思うが、圧倒的に後者の方が英語が難しい。基本的に新聞記者は作文のプロで、彼らは万人に分かりやすい文章を心がけているが、そうでない一般人の方が難しい英語を使ってしまいがちなのだ。

5. 英語を楽に覚えたいという願望が、グロービッシュを誤解させる

国際企業で良く訓練されたネイティブは、意思疎通のためにグロービッシュで話しかけてくるかも知れないが、日本人としては相手にグロービッシュを期待はできないので、日本人には全く意味の無いツールになっている。

しかし、実は従来の詰め込み型の英語学習法はそんなには間違っていなくて、ガリガリと3,000時間ぐらい頑張れば、何とか英語を使えるようになるというのが、英語教授法の専門家の認識のようだ(日向清人のビジネス英語雑記帳)。もっとも、社会人が3,000時間も勉強していられない。

楽して英語を使いたい願望が、ネイティブがノン・ネイティブに話しかけるためのツールを、ノン・ネイティブがネイティブに話しかけるツールだと誤解させるのであろう。日本人の英語運用能力は、決して高くは無いのに、英語を必要とする企業が増加しているので、焦りもあるのかも知れない。グロービッシュが注目されるところを見ていると、日本人が本当にグローバル化社会を生き残れるのか、少々不安に感じる。

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