2011年4月4日月曜日

原発は『補助金』無しでも生き残れる

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以前のエントリーに関して、「よし、そんなに経済効率いいならまず原発関連の政府の補助金をゼロにしようぜ。研究開発や地元自治体に出るのとか全部含めて。他より効率的なら生き残れるよな?」というコメントを頂いていた。

なるほど、電力会社は費用最小化するので、最も効率の良い発電電力源を選択するはずだ。もちろん『補助金』が無くなっても、原発は生き残れるであろう。その理由は以下になる。

1. 『補助金』は、エネルギー対策特別会計の予算配分で実現

現在の原発関連の政府の『補助金』制度の状況を確認してみよう。

原発に関わる政府支出としては、経済産業省が管轄のエネルギー対策特別会計がある。この特別会計は2011年度で7,525億円の予算があるが、そのうち原発に関係があるものは1,816億円となっている。再生可能エネルギー関連予算は1,024億円だ。メタンハイドレート関連89億円を含む、化石燃料関連は2,298億円となっている(経済産業省)。

総合エネルギー統計によると、2009年に一次エネルギーに占める原子力の割合は11.0%。石油・石炭・LNGの化石燃料の割合は82.9%。1ジュールあたりの原子力の補助金額は、化石燃料の約6倍だ。再生可能エネルギーも、約12倍となっている。つまり政府はエネルギー対策特別会計の予算配分で、原子力や再生可能エネルギーを優遇している。

2.『補助金』の原資は、電力会社が払う電源開発促進税

原発の『補助金』にはトリックがある。

エネルギー対策特別会計の原資は、石油石炭税と電源開発促進税だが、原発の立地や研究開発に関わる費用は電源開発促進税から賄われていると考えて良い。この電源開発促進税は、電力会社にかけられる特別税だ。2009年度は3,292億円の税額になっている(電気事業と税金2010)。

つまり、電力会社は自らが払った税金を、使途が制限される補助金の形で返還されている事になる。電力会社の活動を、政府が決めていると言っていいかも知れない。

3.『補助金』が、原発のコストに与える影響は限定的

この電源開発促進税として取り上げた資金を、エネルギー対策特別会計で配分するときには、前節の通り火力よりは原発と再生可能エネルギーに重点がおかれている。生産量に応じた配分よりは、1,000億円ぐらいは原発に重点的に配分しており、政策的に火力よりは原発が安くなるようにはなっている。

しかし、この『補助金』は原発の発電原価を2.5%低下させていると言えるが、発電コストの比較では誤差の範囲の影響しかない。電力会社の売上は16兆円を超えており、25%の発電量シェアを持つ原発は、4兆円分の発電に寄与していると考えられる。1,000億円の配分変更は、現在では大きな影響力を持っていない。

4. 化石燃料以外を優遇する理由

原子力や再生可能エネルギーが優遇されている理由は、化石燃料に依存すると困る事が分かっているからだ。1970年代はオイルショック、つまり地政学的な理由で原油の価格や供給が不確かになり、近年は新興国のエネルギー需要の増加により、急激に化石燃料の価格は増加している。

電源多様化対策費の目的にも、以下のように明確に記述されている。

石油危機の経験により、石油代替エネルギーの開発及び導入を図ることが緊急課題化したことを背景に、石油代替エネルギーの発電のための利用を促進するための施策を行う

石炭やLPGも石油代替エネルギーではあるが、価格が連動する化石燃料である事は変わらない。近年は地球温暖化対策のCO2排出削減の意味もあり、化石燃料依存からの脱却の重要性は増している。

5. 原子力を優遇してきた理由

現在でも大きく状況は変化していないが、60年代後半の原子力開発を進める事前の段階では、将来的に化石燃料を代替しうるものとして、原子力しかめぼしいものが無かった。

しかし、原子力の民生利用が本当に現実的になるのかは、電力会社の出資者には分からなかった。かなり大きな不確実性がある。実用化を行い、経済的になるまで40年は経過したはずだ。当時の大抵の投資家は、原子力の価値が立証される前に、寿命を迎えたはずだ。ゆえに、民間企業が自主的に、膨大な資本力と長い研究開発がかかる原子力に投資をする見込みは無かった。

株主が利益を得るかが不明で、利益を得るとしても死んだ後になるような研究開発は、電力会社言えども行えない。民間に任せておけば、石油や石炭が枯渇するまで化石燃料で発電をしていたはずだ。そこで政府は、電源開発促進税と電源開発促進対策特別会計(現在のエネルギー対策特別会計)のトリックで、原子力を優遇することにより、原子力開発を推進してきた。

6. 過去の政策効果により、既に原発は経済性を得ている

現在では原発は最も廉価な発電方法となっている。良く廃炉や使用済燃料の再処理プロセスのコストが計算されていないと批判をされているが、これらも含んだ数字の上でだ。

国内の政策誘導効果だけではなく、国外での研究開発や、化石燃料価格の上昇も、原発の経済性向上の理由ではある。しかし、日本のエネルギー政策の結果、日本の原子力開発が進んだのは間違いない。そして、原発技術は成熟して来ている。

7. 災害後の原発にも経済性がある

今回の原発災害により、廃炉費用と賠償責任の発生リスクにより、原発の経済性が揺らいでいると言う主張がある。この主張は、次の二つの点で誤りだ。

  1. 津波による打撃が数百年に一度の偶発的な災害である。
  2. 女川原発と福島第二原発の被害程度が限定的であった為、福島第一に起きた災害は、今後は防止可能であると考えられる。

今回発生した電力会社の損害が、そのまま将来の電力会社のコストになるわけではない。経済合理的な電力会社は、過去の実績コストではなく、未来の予想コストを最小化するように、経営資源を配分する。

なお、廃炉費用は東電のB/Sに計上済みであったであろうし、損害賠償金額も何兆円になるとは確定していない

8. もし原発に政府補助が無くなったら

世論の影響もあるだろうが、エネルギー対策特別会計が無くなっても、原子力発電は電力会社の自助努力で利用され続けると思われる。原子力には経済性があるからだ。

そもそも電源開発促進税で補助金を自己負担していた現状があり、さらに化石燃料価格の上昇により投資家の関心も高いはずだ。一部の実業家は、慈善活動の一貫として原子力に関心を寄せている。今や原発は商業ベースにのったテクノロジーである。

さらに、2009年度の日本の電力会社全体の売上は16兆3207億円、営業利益は1兆1640億円、経常利益は8,807億円になる。原子力への政府補助1,816億円を、電力会社が負担できない理由は何も無い。

4 コメント:

祐二 さんのコメント...

>なお、廃炉費用は東電のB/Sに計上済みであったであろうし、損害賠償金額も何兆円になるとは確定していない。

”あったであろう”では説得力に欠けますね。
損害賠償金額は非常に少なく見積もったとしても、経常利益がその程度ではとても払いきれないでしょう。税金を使えばいいとでもいうのでしょうか?

uncorrelated さんのコメント...

>>祐二 さん
コメントありがとうございます。
B/Sに関しては決算報告書が公表されているので、確認されると良いですよ。

なお、損害賠償金額に関しては、別エントリにまとめたので、よろしければ参照してください。
http://www.anlyznews.com/2011/04/1.html

祐二 さんのコメント...

ご回答ありがとうございます。

他記事で書いてらっしゃったんですね。納得しました。しかし、人によって金額にものすごい開きがありますから、これから少しづつ明らかになっていくという事ですかね。

でも、それでも私は経済性は安全性よりも重要とは考えていませんので、わざわざウランによる原発にこだわる必要をあまり感じませんね。もちろん輸入元の地政学的リスクやインフレを考慮してもです。
エネルギー問題は特により多くの選択肢が必要だとは思いますが、原発に費やす費用を別の技術開発に使った方が、世界の未来の為だと思います。

これからも有意義な記事、期待しています。

MGT36480 さんのコメント...

補助金ではなく、電源三法交付金を廃止して欲しいです。これのおかげで安全性に対する議論が全くなされないまま最稼働の政治判断がおりつつあります。本当に安全なら交付金などいらないはずですよね?

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