以前のエントリーで小飼弾氏の主張に疑問を呈した所、丁寧に「原発はオワコンと言わざるを得ない理由」というエントリーで反論を頂いた。しかしながら小飼氏は、将来の電力需要に対して現実的な考察をしているように思えない。
小飼氏の反論点を整理した上で、氏が見過ごしている点について指摘して行きたい。
1. 原子力発電所は、望ましくない特性を持つ?
小飼氏は、フランスの原発の問題点を指摘している。つまり、フランスでは原発が過剰設備となっており、稼働率が十分でないという指摘だ。原発は定格熱出力一定運転が最も効率が良く、フランスのように需要にあわせて出力を変えざるをえないときは、経済性が落ちる。
興味深い指摘ではあるが、フランスの電力供給は76.4%を原発に依存しているが、日本は23.9%を原発に依存しているに過ぎない。フランスの水準まで原発を立地すれば、供給過多が問題になるのかも知れないが、日本では現在の倍の出力まで原発を設置しても、供給過多にはならないはずだ。
電気事業連合会のページにある、「最大電力発生日における1日の電気の使われ方の推移」グラフを見てみると、2009年は15時の15,900万kWが最大値、5時の9,200万kWが最小値となっている。これは原発が24時間出力一定だとしても、電力需要の57.8%を満たすまでは効率的に稼動できる事を示す。もちろん地熱発電等の分を差し引く必要があるが、現在の技術では僅かな値に過ぎない。
2. 供給量も発電所に求められる特性
小飼氏は発電所に求められる特性として、(1)場所をなるべく選ばず、(2)簡単に設置できて、(3)ピーク需要をカバーする点であると指摘している。これらは、望ましい発電所の特性ではあるが、電力需要を満たすという最も根本的な点が欠如している。
日本の電力需要は膨大で、火力発電所を除けば、その需要に応えられる電力源は原子力しか無いのが根本的な問題だ。しかも、原油・石炭・LNG価格の急騰とCO2排出削減で、火力は削減したい。
小飼氏が推奨している、太陽光発電ファームは必要な敷地が膨大で、火力や原発の代わりにはならない。太陽光発電ファームの敷地あたりの発電効率は、原発の70分の1、火力発電所の270分の1にしか過ぎないからだ。コスト無視でも、太陽光発電ファームは発電所に求められる特性を満たしていない。
その他の再生可能エネルギーも状況は似ている。例えば地熱発電は、NEDOの試算では開発可能資源賦存量は247万kWで、現在の技術では福島第一原発の56%程度の発電量しか上乗せを期待できない。風力発電は、立地条件も難しく、天候や時間帯によって発電量が変化し、需要に合わせることができない。
一定レベルの電力供給量は発電所に求められる特性の一つで、現在のところ火力の他には原子力しか、この条件を満たしていない。原発に好ましくない特性があるのは事実だが、発電量を確保できるという最も重要な要件は満たしている。
3. 電力消費量の削減は、CO2排出削減と相反する
小飼氏は、「日本の一人当たり電力消費量>フランスの一人当たり電力消費量」と言う表現で、省電力で電力需要を落とすように主張しているが、この主張は電力以外のエネルギー消費と、将来の電力需要の増加を無視している。
まず、日本はフランスよりも一人あたりの電力需要が多いが、日本とフランスの一次エネルギーの消費量はほぼ同一だ(四国電力)。これは、フランスの真似をしても省エネ化が不可能な事を示す。フランスの方式で電力消費を抑えるには、他のエネルギー(e.g. 石油やLNG)を代わりにするか、生産量を縮小する必要があるとも言える。
次に、地球温暖化対策でCO2排出削減が目標で、オール家電や電気自動車などの普及が期待されている状況を考えると、今後益々電力需要が増していく可能性は高い。今年の夏は火力発電所をフル稼働にした上で省エネをせざるをえないであろうが、それが日本の将来のエネルギー政策として妥当なものかは疑問だ。
4. 本当のコスト>貨幣化可能コスト?
小飼氏は、福島県大熊町の男性遺体の収容問題があげられており、原発は非人道的だと主張している。小飼氏は原発推進派に、遺体を収容して、遺族に原発の必要性を説得しろと主張しているようだ。
まず、厚労省や原子力安全・保安院など専門的な知見に基づいて県警がガイドラインを策定し、その後、遺体は収容されたことは指摘しておく(47NEWS)。次に、遺体を収容する義務も権限も無いため、遺体の収容はお断わりさせていただく。個別の人間に原発の必要性を訴える必要があるとも思えないので、遺族への説得もお断わりさせていただく。
5. 原発不要論に欠けがちなこと
小飼氏のエントリーに限らず、大抵の原発不要論に欠けがちなことを二つ述べておきたい。
まず、原発が危険なのは確かだが、コントロール不能なリスクだと断言するのは、まだ早い。福島第一原発の事故の発生プロセスに関して、まだ詳細な検討がされているわけではない。福島第二原発と女川原発は、今回の災害でも福島第一原発ほど大きなトラブルには拡大しなかった。また、福島第一原発に起きた「20:30 1、2、3号機、中操照明確保準備中、M/C水没」後の対応も、もっと適切な方法があったのかも知れない。
次に、本稿の第2節でも指摘したが、経済的制約の認識が不足している。原発が危険だから他の技術による発電を模索したり、電力を諦めて省電力を訴えるのは直感的には正しい。しかし、原発の不必要性を訴えるために、他の発電電力源を過剰に評価したり、CO2排出削減という別の制約を無視して論を進めるのは問題だ。
つまり原発不要論では、今回の事故原因の検討と、経済的制約の認識が不足しているように感じる。この2点が十分になされないうちは、原発を不要だと断言するのは不適切だ。
4 コメント:
大筋賛成ですが、従来原発はイイとこ取り、他エネルギーは悪いとこ取りのキライがあったから、多少の揺り戻しは覚悟してた方が吉。感情的な言辞は言語道断ですが、人間社会のリアリティってなところも再認識を要す。経済だってセンティメントで動きますからねぇ。ともあれ、現在の原発全てダメダメつう感情論を刺戟しないでもう少し上手く立ち回る納豆臭せえ、いや納得性が求められるところです。大鑑巨砲よりかゼロ戦ぶんぶんつうユビキタス?にも多少の考慮がいるかもね。いじょ、怒素人の感想まで。ども。
>>UNCORRELATEDさま
>原油・石炭・LNG価格の急騰とCO2排出削減で、火力は削減したい。
次世代エネルギー技術の確立まで原子力を使うか火力を使うかですが、電力会社は着々と両方とも手を売ってきました。例えば中部電力は新潟県上越市に建設中の大規模LNG発電所が来年には稼動しますし、西名古屋火力を石油からLNGに転換する準備をしています。CO2排出と放射性物質の生産は十分天秤にかける価値があり、当方はLNG火力の方が安全かつ経済的と考えます。LNGは日本近海・隣国で調達できますから。もっとも中・露とも手強い国なので外交能力が問われますが。
>原発が危険なのは確かだが、コントロール不能なリスクだと断言するのは、まだ早い。
なるほど、ではもう一度大地震・津波が起きてからでないとわからないということでしょうか。
地震学者の総意として東海・東南海地震は近く確実に起きるそうなので、次の被災候補として浜岡原発を挙げる識者が多いのは理解できます。
しかし当方は2度目の「実験」など真平御免です。福島で起きたことから学ぶことは多すぎます。もう十分です。
>「原発に好ましくない特性があるのは事実だが、発電量を確保できるという最も重要な要件は満たしている」
ものは言いようですね。当方はこう言い換えるべきだと思います。
「原発は発電量を確保できるという最も重要な要件は満たしているのは事実だが、好ましくない特性がある」
>>holenailthaw さん
コメントありがとうございます。
> LNG火力の方が安全かつ経済的と考えます。
LNG火力は技術的に信頼のおけ、発電量の調整もしやすいメリットがありますね。また、近年、潜在埋蔵量が大きく増える技術革新があったのも事実です。
しかし、新興国の天然ガス需要が堅調であるため、LNGの価格も原油や石炭と同様に上昇すると考えられます。
http://www.anlyznews.com/2011/04/blog-post_07.html
> なるほど、ではもう一度大地震・津波が起きてからでないとわからないということでしょうか。
福島第一と第二の比較で十分、必要な安全対策が分かると思います。
参照されている電気事業連合会のHPアドレスが破損しているのでコメントさせていただきました。
破損しているサイト:
https://www.fepc.or.jp/present/jigyou/japan/index.html
新しいアドレス:
https://www.fepc.or.jp/enterprise/jigyou/japan/index.html
日本の電力市場またグリーンエネルギーのアップデート情報が紹介されているページがありましたのでご紹介させて頂きます:
日本電力市場
https://selectra.jp/energy/guides/knowledge/denryokushijyo
グリーンエネルギー
https://selectra.jp/energy/guides/environment/green-energy
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