原発から放射性物質が外部に流出してから約一ヶ月経過して、政府は避難区域と屋内待機区域の変更を示唆した(asahi.com)。
放射性物質の流出範囲にあわせた現実的なエリアの避難地域・屋内待機区域となるが、解除区域はともかく、拡大に関しては疑問が残るものとなっている。放射性物質の流出が停止したので、汚染レベルは低下しているからだ。
1. 放射性物質の流出は停止
3月15日に最大値11,930μSvを記録した福島第一原発正門前放射線濃度だが、4月9日21時現在で87μSvまで低下している。これは、原子炉からの“放射能”の漏洩が止まった印と見て良い。また汚染水の海洋流出も停止した。
2. 放射性濃度は時間とともに低下
原発外への汚染拡大は停止しつつある。原発周辺の放射線量も3月中旬がピークで、その後は急激に低下している(asahi.com)。
計画的避難区域とされた、福島県葛尾村、浪江町、飯舘村の全域および、川俣町と南相馬市の状況も改善している。
右は、文部科学省のウェブページに掲載してあったデータから、浪江町(赤宇木)の放射線濃度をプロットしたものだが、ピークを過ぎた3月20日から比較しても、放射線濃度は76%ほど減少している(クリックで拡大)。
浪江町(赤宇木)以外の地点の傾向も変わらない(クリックで拡大)。
3. 放射性物質の流出二ヶ月後の避難への疑問
政府は、これから避難に一ヶ月程度の時間をかけるとしているが、疑問が残るスケジュールとなっている。
3月20日から4月10日までの浪江町と飯舘村、そしてベンチマークとして福島市の放射線濃度の変化を、それぞれ指数関数への回帰し、2μSVまで減少する日を予測してみたのだが、5月21日には到達する予測となった。つまり、一ヵ月後には計画的避難区域の放射線濃度は避難不要なレベルまで減退するので、そこから退避しても余り意味が無い。
避難が必要とされる年間被曝量は20mSV~100mSVと言われているが、一日あたり54μSV(2.28μSV/h)~274μSV(11.42μSV/h)の被曝量を意味する。計画避難区域は3月中は54μSV/日を超えていたのだと思うが、来月にはもっと低い水準になっているはずだ。
日付 | 福島市 | 浪江 (赤宇木) |
浪江 (下津島) |
飯館 |
---|---|---|---|---|
3月20日 | 6.0 | 105.0 | 38.5 | 25.4 |
3月30日 | 2.0 | 41.6 | 19.8 | 8.0 |
4月09日 | 1.0 | 26.1 | 12.3 | 6.0 |
2μSV 到達予測日 |
4月01日 | 5月15日 | 5月21日 | 4月28日 |
R2 | 0.8308 | 0.9371 | 0.7518 | 0.7981 |
国際放射線防護委員会(ICRP)からの勧告に従って退避区域を再設定したのだと思うが、住民には生活もあるし、避難先の確保も問題になってくるため、迷惑な話だと言わざるをえない。
4. SPEEDIを根拠にして避難区域を策定すべきだった
今さら避難をさせるぐらいなら、3月中に緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)に基づいた地域設定をするべきだったのは間違いない。5月以降の避難を上回る効果があったはずだ。風向きなどで状況が変化するので、円状の避難区域が不適切だったとは思わないが、住民の被曝量が顕在化してからでは避難をしても無駄である。
5. 必要性があるのであれば、説明するべき
もちろん、当該地域の土壌汚染が深刻だと確認されたなどで、政府が上のモデルと異なる放射線濃度の減退予測をしている可能性はある。非常にゆっくりとしたペースでしか放射線濃度が減退しないのであれば、長期間の退避が必要であるし、一ヶ月ぐらい避難の遅れは大きな差を生まないであろう。
しかし、そのような情報は公開されておらず、現状では政府の無計画ぶりが目立つ状況となっている。
0 コメント:
コメントを投稿