2011年4月2日土曜日

福島第一原発事故による賠償金額

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福島第1原発事故の賠償金額について、色々な噂が飛び交っている。バンクオブアメリカ・メリルリンチの29日付の投資家向けリポートによると、東電の損害賠償額は最悪の場合約10兆円に上る可能性を指摘している(Bloomberg)。財務当局は「現時点で既に1兆円を上回っている」と指摘しているそうだ(47NEWS)。

しかし、これらの見積り根拠は、かなり薄いものとなっている。

1. 賠償金額予測の根拠は薄い

これらメディアの報じる賠償金額予測の根拠は、当然ながら薄く、根拠も東海村JCO臨界事故の数字を根拠にしているだけだ。例えば、株式NEWS /モーニングスターの記事をあげると、以下のようになっている。

大ざっぱな推計だが、東海村のケースでは避難指示が出た40世帯強(1世帯あたり4人家族として160-180人程度)を対象に150億円の賠償金が支払われたわけで、今回も同様に半径20km以内の避難指示が出た世帯の約8万人を対象としても、東海村の約450倍の約6.8兆円の損害賠償額になる。

40世帯に150億円の賠償金とすると、1世帯あたり3億7500万円の賠償金を手にしたことになり、原発事故成金が出現したことになる。そんなはずは無い。賠償金の内訳は世帯あたりの数字ではなく、この記事でも違う箇所で指摘しているが、農作物などの風評被害による損害に対して支払われている。

2. 低めに賠償金額を推定してみる

就業人口や農業産出額から、賠償金額を推定してみよう。農林水産省『わがマチ・わがムラ』から、南相馬市、浪江町、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町、葛尾村、川内村、田村市、飯舘村、浪江町、いわき市のデータを参照し、現時点で推定される損害賠償額を計算してみた。

  1. 半径30Km以内に一部でも含まれる市町村の、労働人口は266,804名。
  2. 基幹的農業従事者数は18,436名、農業産出額は年額1,407億円。3月に米の作付が不可能になるなど1年間は影響があるため、1,407億円の損害と見なす。
  3. 非農業従事者は、248,368名。福島県の平均月収は34.2万円(年収ラボ)。二ヶ月就業不能とすると、1,700億円の休業損害。
  4. 企業の休業損害は不明だが、日本の資本・労働分配率から逆算すると、729億円の休業損害。
  5. 放射能除染費用は、恒久的な土壌汚染が確認されている地域が無いため、存在しないと仮定する。
  6. 半径30Km以内は地震や津波で被害を受けていないと仮定し、賠償金額から差し引かない。
  7. 農業被害と休業損害を合計すると、3,836億円の見積り賠償額となる。

売上高5兆円、純資産2兆5000億円とされる東京電力は、この3,836億円であれば十分に負担できる。さらに、原子力損害賠償法で、最低でも政府に1,200億円を負担してもらうことができる。経営に影響はあるが、会社存続が危ぶまれる状況ではない。

もちろん土壌汚染による放射能除染費用と、避難地域外の風評被害を計算に入れていないので、この3,836億円は低めの金額になっている。また、1兆円と言われる廃炉コストや、3月分で450億円に達した、火力発電所の代替燃料費の負担増の影響は、賠償とは別に経営負担となる(読売新聞)。

追記(2011/4/6 9:00):小女子の放射能汚染が報道された茨城県の水産業は2006年度で約188億円になる。水産業への補償額が加算されると、4000億円強の損害賠償額になる。

3. 株式市場を霍乱するマスコミ

状況が全て明らかになっていないので、上で試算した3,836億円の損害賠償の見積りの方が正確だとは主張しない。しかし、現在のマスコミの報道では、6000億円~9兆6000億円の土壌汚染による放射能除染費用と、避難地域外の風評被害を損害賠償額の前提としている事は指摘したい。

3月11日の災害発生後、東京電力の株価は2000円から466円まで急落している。投資家がどの程度の損害を前提に売買をしているのかは不明だが、1兆円とも10兆円とも言う損害賠償額が株式相場を霍乱している可能性はある。

もちろん、放射能除染費用と避難地域外の風評被害も存在するであろう。10兆円が間違っているとは、現時点では誰にも言えない。しかし、現時点までの報道では、広範囲に土壌汚染が発生しているという明確な情報は無い。風評被害の範囲と規模も明らかにはなっていない。膨大な額の損害賠償額を見積るのであれば、もう少し根拠を明確にしてもいいはずだ。

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