2010年12月17日金曜日

あるフィンランド人の希望的観測に、狂喜するブログと混乱するニュースサイト

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Asymco社は、フィンランドのヘルシンキの会社で、iPhone/iPadアプリ制作などを手がけている。従業員は恐らく2名で、創業者のDediu氏が経験を生かして趣味で携帯電話業界の分析を行っている(Asymco)。

彼が数日前のブログの記事で、米国最大手の携帯電話会社Verizon Wirelessが、iPhoneを販売していないために、スマートフォンの販売に苦労しており、Appleと契約してiPhoneを販売するのではないかと主張している。根拠としては、彼が集めたデータでは、2010年第3四半期では、AT&Tが売ったiPhoneの数が、Verizon Wirelessが売ったAndroid端末を含むスマートフォンの合計数より多いと言うものだ。

1. 他の調査結果との整合性が低い

他の調査によると、米国の2010年第3四半期はAndroid端末はiPhoneの2倍の数が販売され、利用者数の差も大幅に詰まり広告効果ではAndroid端末がiPhoneを上回っているのだが、分析では全く気にしていない。利用者満足度調査の数字とも、あまり整合性がない。最も人気のあるAndroid端末は、Verizonで販売しているDroidシリーズだとされているが、その数字とも傾向が一致しない。さらに、他の携帯電話会社SprintとT-mobileは完全に無視されているし、Android端末が売れ出したのは2009年秋以降で、iPhone端末は2008年から売れているのだが、両者の買い替え需要は同程度と見なしている。最初の150万台のiPhone 4の購入者の77%は買い替え需要だと報道されていたのだが。

整合性が低さを詳細に見てみよう。Dediu氏はVerizonでスマートフォンが330万台しか売れていないと指摘しているが、市場シェアから類推すると、同期間にAndroid端末は880万台~1000万台は売れている。RIM BlackBerry等のシェアからすると、330万台のうちAndroidは220万台程度になるはずだ。Dediu氏は、Androidは端末の魅力が低いので、iPhoneに対抗できないと主張している。ゆえにiPhoneを取り扱っているAT&TではAndroid端末は売れない事になるので、T-mobileとSprintで660万台~780万台はAndroid端末を売っている事になるだろう。この2社の合計市場シェアは4月の時点で24%に過ぎずVerizonの31.1%に及ばないが、AndroidだけでVerizonの2倍のスマートフォンを販売したことになる。つまり、Dediu氏の推論が正しい事になると、iPhone無しのT-mobileとSprintがスマートフォンのシェアを大きく延ばしている事になり、iPhoneが無いためにVerizonがスマートフォンのシェアを落としているという結論と矛盾する。

2. AT&TユーザがiPhoneを使っても、Verizonには関係ない

根拠になる数字の信憑性を置いても、AT&TユーザーのiPhone率の増加が、Verizonの脅威になるかが問題だ。加入者シェアの伸びで、AT&Tが圧倒的なリードを保っているなら脅威だ。しかし、AT&Tの既存ユーザーが次々にiPhoneに乗り換えていても、あまりVerizonには関係がないように思える。4月の調査ではVerizonがシェアを0.1%落とし、AT&Tが0.2%延ばしていたが、ここ半年間は携帯電話会社の加入者数シェアは報道されていない。

3. 市場シェアだけ見ると、VerizonよりAppleの方が切迫感あり

商品の取り揃えは充実している方がいいので、VerizonがiPhone取り扱う可能性が無いわけではないが、今の所はVerizonが追い込まれているかは疑問だ。販売数シェアを見る限りは、まだAppleの方が切迫しているような気がしなくもない。

AppleInsider等は、VerizonがAppleから独占販売権を買うのではないかと予想しているが、Verizonは赤字なので広告販売費は抑えたいであろうし、製造が追いついていないAppleがVerizonに供給する分のiPhoneを確保できるのかも疑問だ。もちろんAppleが供給を改善し、Verizonで売りたいと思えば、Verizonが断る理由は何も無い。ただし、その場合は特別なキャッシュ・バックは行われないと考える方が妥当だろう。

4. 2010年第3四半期のキャリア別市場シェアが鍵となる

結局、Verizon Wirelessを動かすのは市場シェアの推移だ。2010年第3四半期のキャリア別シェアが明示されない限り、Dediu氏の推論も信憑性は薄くなる。逆に、iPhone 4の好調な販売がAT&Tのシェア拡大につながっている事が示されれば、Verizonが動く可能性が現実味を帯びてくる。しかし面白いことに、iPhone 4発売後の加入者数シェアが大きく報道された様子がない。

5. 調査結果とその推論は鵜呑みにしてはいけない

iPhoneアプリ製作者のDediu氏が、iPhoneのシェア拡大を祈っていても責められないし、Appleファンのブログが取り上げても不思議はない。しかし、日本のマイコミジャーナルWirelessWire Newsが取り上げていると、Dediu氏にまんまと釣られているようにしか思えない。話としては面白いかも知れないが、騙されるにしても、もっと上手いトリックに騙されるべきであろう。

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