アンフェのネット論客の朱夏論氏が脱リバタニアン宣言を行なったあと、「テクノ封建制」によってもたらされると言う人工知能が人間にあれこれ指図するパターナリズム*1を予言している*2。
議論自体も粗いのだが*3、言葉の使い方がぐちゃぐちゃなところが気になった。AI家父長制ではなくて、人工知能パターナリズムと呼ぶほうが適切だから。朱夏論氏には共同体主義と家父長制の混乱もありそうだったので、その辺もまとめて指摘したい。
語弊はあるが、用語をざっと説明しよう。
- テクノ封建制(Technofeudalism)
- ギリシャの財務大臣を務めたこともある経済学者ヤニス・バルファキス氏が提唱する、FacebookやAmazonのようなビッグテックの経営陣が強力な市場支配力を持ち、その他は農奴のように苦しむ社会。良い概念とは思わない*4が、近年、ぼちぼち言及されている。
- パターナリズム(paternalism)
- 親が子どもの面倒を見つつ躾けるように、偉い人が弱輩のためだとして、弱輩の行動を制約し、あれこれ指図すること。
- 家父長制(patriarchy)
- 家父長が他の家族に対して指揮命令をし、家計の財産の処分権を持つような社会制度のことを言う。家父長が家人にパターナリズムを発揮する場合も、「オレの代わりに詰め腹を切って、隣人に謝ってくれ。」と命じる場合もある。現代的には窮屈ではあるが、一族が命運を共にしているときは機能するのか、世界的に広く見られる。
- 昔は家父長制だったと言うイメージがあるようだが、日本の下々は惣村という共同体が中心であった。明治維新により1898年に欧米を習って家制度という家父長制を庶民にまで本格導入するが、太平洋戦争後の1947年廃止された。日本で社会全体に家父長制が敷かれたのは、僅か49年間となる。
- 共同体主義(communitarianism)
- 村社会と揶揄されることもある地元や大企業のコミュニティを大事にしましょうと言う話。村社会重視主義。人々の価値観が所属する共同体に強く影響を受けており、共同体なくして人々は道徳的、政治的判断はできないので、人々は共同体に貢献しなければならないと言う考え*5。家父長制ではない共同体もありえるし、家父長と共同体に軋轢が生じることもある。村社会にはパターナリズムが内包されていることが多いが、村社会も村民に「村を代表して、隣村で打ち首にされてくれ。」と言うことがある。
用語説明の意味から明らかななのだが、人工知能パターナリズムは、家父長制でもないし、共同体主義でもない。さらに、経験的に裏打ちされたことを重視する保守主義(conservatism)ではなく、革新主義(progressive)である。伝統的な男女の役割を重視していると言う意味では保守的なのではあるが。革新主義であってはいけないことはないのだが、朱夏論氏は保守を指向していたよね?
*1強制力はないようだが、情報の提供と言うよりは、具体的な指示を与えてくるようなので、パターナリズムの一種と看做す。
*2テクノ封建制サバイバルガイド――AIが弱者男性に女をあてがう未来社会|朱夏論(しゅかろん)
*3学業や就業における性的役割分担と従い子孫繁栄に邁進することが、人々の幸福をもたらすことを前提にしているが、そうとは限らない。理屈の説明が要る。「弱者男性に女をあてがう」ことが可能なのかも分からない。人工知能パターナリズムに従うかは否かは任意となっているので、利用者がシステムから離脱しないような安定マッチングを提供する必要があるが、安定結婚問題の解として知られるGale-Shapleyマッチングでは非モテ男女のペアができる可能性がある。この場合、結婚よりも独身が選択される可能性が少なくない。
*4なお、ビッグテックと言うかSNS企業の性質については、Ritzer (2015)のProsumer Capitalismの議論の方が説得的である。
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