2025年2月22日土曜日

さくらのクラウドを応援したいけれども、ITエンジニアとしてはAWSなどの外資系サービスを使いたい

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…と言う率直な意見のツイートが10日ほど前に流れ、盛り上がっていた*1

さくらのクラウドは、日本でもっとも頑張っているシステム構築用途のクラウドサービスだ。ホスティング事業者さくらインターネットが運営している。AWSはインターネット通販最大手が手がけるサービスで、世界市場で3割強、日本においては5割のシェアを誇る。実績から利用ノウハウの共有が進んでおり、提供されているサービスが先進的だ。

両者のサービス種類の差は大きい。AWSではモダンなクラウド利用*2も可能だが、現時点でのさくらのクラウドでは旧世代のクラウド利用*3しかできない。運用サーバーの管理から解放された状態で、スケーラビリティを極限まで追求するのがモダンなクラウド利用になるが、さくらのクラウドは、そのためのサービスの拡充を最近までしてこなかった。一昨年の段階で10年ほど遅れている*4

システムのサーバー負荷を正確に予測するのは困難であり、インターネット向けのサービスだと予想外のアクセス急増でシステムダウンしてしまうこともありえるので、モダンなクラウドの自動化されたスケーラビリティは魅力的だ。ITエンジニアとしてはAWSなどの外資系サービスを使いたいと言うのは、技術的にも理由のある主張となる。オートスケールが必要なのであれば。

ただし、単に新しいモノ好きだから外資系サービスを使いたいと言うITエンジニアもいるので、合理性については危うい面もある。AWSを採用した理由で「レガシーシステムの運用・保守の人材募集にエンジニアは集まりません。そのため、開発者体験を改善し、魅力ある環境をアピールする必要がありました」と言うものがあった。AWSの新サービスを嬉々と紹介するITエンジニアに、そういう傾向を感じることはある。

費用や機密*5の観点からは、必ずしもクラウド利用が適切とは限らず、大規模サイトでのオンプレミス*6回帰の事例もある*7。クラウドサービスは大手グローバル企業の寡占状態であり、各国の公正取引委員会は不正が無いか注目をしている市場だ。さくらインターネットの創業経営者である田中邦裕氏は、特定クラウドへのロックインに対して警鐘をならしているが、ポジショントークとも言い難い*8

話題になったツイートは素朴な一言だと思うが、サーバー運用の現状を現していて興味深い一言であることが分かる。ところでデジタル庁クラウドチームの皆さんのモダンなクラウド推しの動機は何であろうか?

*1さくらのクラウドを応援したいけれども、ITエンジニアとしてはAWSなどの外資系サービスを使いたい - posfie

*2デジタル庁クラウドチームは、IaaSなしのPaaSとFaaSの組み合わせを、モダンなクラウドと呼んでいる。利用者はサーバーのアカウントを得て利用し、サーバーの管理はクラウド事業者が担当する形態のサービスをPaaS、利用者はアプリケーションを登録するだけで、それを実行するサーバーを操作せず、クラウド事業者がサーバーにアプリケーションを配置して、適時実行する形態をFaaSと呼ぶ。ユーザーは運用に使うサーバーの管理の仕事からも解放されるし、ハードウェアの増強などを自動で行えるので、さらにスケーラビリティが高くなる。

*3デジタル庁クラウドチームは、IaaSを利用する場合を、旧世代のクラウドと呼んでいる。仮想サーバー/仮想ネットワーク貸しのクラウドサービス(IaaS)を中心に事業を展開してきた。利用者がウェブで注文すると、インターネットサーバーがリードタイム無しで使えるようになるサービス。サーバーまわりのネットワーク構成も同様に行える。データセンターに行かなくて済むので、作業時間のかなりの短縮になる。さらに、トラフィックにあわせたハードウェアの増強や増設も同様にできるので、一般的な設備のオンプレミスと比べてスケーラビリティが高い。

*4ガバメントクラウドに認定されるためか、さくらのクラウドもモダンな利用が可能なように機能を増やしているが、Object Storage(S3 2006年)が15年遅れ、β運用中のServerless ServiceがAWS Lambdaに10年、AWS Fargateと比べて7年遅れている。なお、コンテンツ配信サーバー(CDN)は、さくら2016年に、AWSが2017年頃に提供開始となっており、むしろ速い。CDNは2001年頃から出て来ているので、クラウドサービスの枠に入るかは分からないが。

*5原理的にはクラウド事業者は稼働中の仮想サーバーのインスタンスのメモリーを読むことができ、米国家安全保障局(NSA)はIT企業にバックドアを仕込む要請をしていたことがあると言われている(焦点:IT機器に「バックドア」 米情報機関がひた隠すサイバー戦略 | ロイター)。ただし企業の解雇されたIT担当者が問題を引き起こした事例はあっても、NSAの職員がやらかした事例は聞かない。

*6ユーザーがサーバーやネットワークなどのハードウェアから調達・管理を行う場合をオンプレミスと呼ぶ。

*7海外で進む「オンプレミス回帰」 その背景に何があるのか(1/3 ページ) - ITmedia NEWS

AWSからオンプレミスに移行したWebRTC配信サーバのその後 - DMM inside

Leaving the Cloud — REWORK

*8近年の国外でのクラウド活用の議論を見ると、クラウドではじめてオンプレミスに移るのが定石で、最初からベンダー・ロックインしないように注意するべきと言う話になっている。なお、2023年にオンプレミスがシェア50%を僅かに切ったけれども、83%の企業が何らかのシステムでクラウドからオンプレミス回帰を考えているそうだ(Cloud Repatriation on the Rise-EE Times Europe)。なお、適材適所を模索する動きであり、クラウド忌避ではない。

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