政府のクラウド推しは政治主導で決まったので*1、官僚であるデジタル庁クラウドチームは適材適所の理屈を超えてクラウド推進をしないといけない。しかし、政治に関係なく技術的特性は定まっているので、頑張れば頑張るほど、話がおかしくなってしまう。システム開発に関わったことがあれば、すぐに苦しい話だと分かるような事を言い立てていた。
1. ポータビリティ
例えば、デジタル庁クラウドチーム山本教仁CCOのテックブログ*2に以下の記述がある。モダンなクラウド利用は特定クラウドサービス事業者にロックインすると言う批判に対する反論だ。
ロックインを嫌って汎用OSの上にソフトウェアを一から独自に組み上げると、今後は逆にそのソフトウェアの構成や運用機能がブラックボックスとなりロックインの原因となります。
話がおかしい。ロックインと言うか、ポータビリティが無くなるのは、作り方がおかしいからだ。また、アプリケーションの内部構造や、データベースの定義がブラックボックスになっていることはあるのだが、稼動環境が本当に分からなくなることは(オープンシステムにおいて)無い。
アプリケーションがブラックボックスの状態でもポータブルであるように、ミドルウェアは進歩してきた。また、開発と運用の環境を分けることが普通だが、それで複数の環境で動くようにシステムを構築せざるをえなくなる。さらに、シェル職人が一発環境整備可能にしている場合も、Docker職人がDockerfileで仕様をまとめている場合もある。
システムを構成しているソフトウェアの一部が、特定のハードウェアやOSやミドルウェアのバージョンなどに依存する場合はあるのだが、そのソフトウェアのバージョンアップ、他のソフトウェアへの代替、仮想環境による古いOSやミドルウェアの用意などで問題は回避される。プロプライエタリなジョブ管理システムあたりは悩みどころだとは思うが。
2. コスト削減効果
他にもある。IT産業のセールストークにおいてコスト削減は常套文句。デジタル庁のガバメントクラウド推しの理由の一つにもコスト削減がある。
ところが、その理屈の一つである「サーバー、OS、アプリを共同で利用」は自治体クラウド(と言う名のASP方式)で達成されていることだし、もう一つは「民間事業者が…開発したアプリを自治体が選べるようにすることで、競争によるコスト削減」は、既に地方自治体向けパッケージが売られているので*3、ガバメントクラウド化で新たに得られる利益にはならない。実際、クラウド化がコスト高になるとデジタル庁に自治体は陳情している。
コスト削減方法を考えろとデジタル庁クラウドチームに声がかかったのか、「ガバメントクラウドでのコスト削減の考え方|デジタル庁」と言うテックブログが出ている。本題であるコスト削減方法についての解説は良いのだが、オンプレミスの場合との比較があって、それがおかしいことになっている。
クラウドとオンプレミスの比較をするのであれば、トータルコストを見ないといけない。しかし、クラウドで可能な運用経験に基づくスケールダウンによるコスト削減効果が、オンプレミスのときのハードウェアを購入する場合のベンダー営業が示す割引より大きいことを強調している。1億円の20%オフと、5000万円の10%オフの同じような機能の商品比較して、1億円の20%オフの方がお得だと言っているようなものだ。
さらに削減効果の試算における初期の構成が豪華すぎて、削減効果が大きく出すぎている部分もある。オンプレミスでも負荷が軽いものであれば、1台で4サーバーぐらいはこなすものだが、試算では初期は4台構成になっている。検証環境にロードバランサーは要らないし。
*1菅義偉総理のときに政治主導で成立した、地方公共団体情報システムの標準化に関する法律では、地方自治体になぜか主要業務アプリケーションのガバメントクラウドへの移行を求めている(窮地の自治体システム標準化、政治主導のデジタル政策を軌道修正できるか | 日経クロステック(xTECH))。
*3パッケージ開発会社はガバメントクラウド向けのバージョンも売り出しており、システムの乗り換え時期になった地方自治体は、うまくガバメントクラウドへの移行を実現できたようだ(「ガバメントクラウドへの移行に向けて~国分寺市CIO×都CIO座談会①~」「オール東京でのDX推進~国分寺市CIO×都CIO座談会②~」)。
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